第1657話 S級冒険者(風の勇者)
「ザンバリー様には大変お世話になりました」
中に通され、客室でお茶を出してもらって親父殿たちの話を聞かせてもらった。
十年前までバイゼルさんは隊商を指揮しており、マリンベルとアーベリアンを行き来していたそうだ。
「マリンベルとアーベリアンの間って確か、山脈があったよな?」
くるときは夜だったかはわからんかったが、千メートル級の高くもなく低くもない山脈が横たわっていると聞いたことがある。
高くもなく低くもないから山賊が巣くうのにちょうどよく、よく隊商が狙われるそうだ。
魔物も巣くうんじゃね? とか思ったんだが、いてもオークくらいで比較的大人しめの山脈で、余計に山賊が巣くうんだとか。道もいくつかあって山賊に遭うのは運によるとかも言ってたな。
「ザンバリー様、赤き迅雷には助けられました」
「山賊無限発生地帯だっけか? 倒しても倒しても出てくるとか聞いたな」
「ええ。食うに困った者が集まってきて困ったところです」
生きるのが大変な時代。食うに困れば奪えばいいと考えるヤツが多い。マリンベルとアーベリアンは交易も頻繁だ。冬も雪が降らないから一年中往来しているから集まってくるんだろうよ。
「今も現れてんのかい?」
「はい。変わらずですね」
この世界、転生者が多いのに技術が発展しねーよな。何百年も前からいんだからもう宇宙にいってても不思議じゃねーんだがよ。なにかが邪魔してんのか?
「空には飛竜がいて海には暴竜がいる。商売するのも命懸けだ」
それはこの世界で生きる者すべてに当てはまることだが、いつまでもこのままだといき詰まるんじゃねーか?
「ウワサでは風の勇者様が飛竜退治に乗り出すそうです」
風の勇者? なんか前に聞いたことあんな?
「創造主様を襲った者です」
猫型ドレミがオレの膝に上がってそんなことを言った。
あ、思い出した! エリナを狙ってたヤツな! 昔過ぎて忘れてたわ! ※101話。
「勇者やら魔王が身近すぎて新鮮味がねーな」
「世界を裏から操る村人からしたら勇者も魔王も一つの駒でしかないですからね」
あなたも結構言うね。魔大陸で商売するだけのことはある。
「まあ、風の勇者が動くんなら今回の騒ぎも落ち着くか」
「そうですね。実力的にはザンバリー様より上。冒険者ギルドではS級に登録されてますから」
「S級なんてあったんだ。初めて聞いたわ」
A級ですら人間離れした強さをしている。それ以上あるなんて考えたこともなかったわ。
「そうですな。勇者の名が勝っていますから」
確かにS級ってより勇者ってほうが世間に馴染んでいる。勇者=強いって図式だからな。
「ちょっと見てみてーが、まずはプララだな。あれは村でも人気だ。大量に仕入れられんならありがてー。アダガさんと商売してくれや」
「もちろんですよ。ザンバリー様のご子息様とお付き合いができるならこちらとしてもありがたい限りです」
「オレは、ロイさんと仲良くするからバイゼルさんはアダガさんと仲良くしてくれや。アダガさんはオレが認めた商人の一人だからよ」
オレの中で一番の商人はあんちゃんだが、アダガさんとチャンターさんも負けてねー。あんちゃんと同じくらいイイ商売をしてくれることだろうよ。
「べー様にそう言っていただけると誇らしいです」
「オレの言葉なんて気にすんな。アダガさんは元から優秀なんだからよ」
魔大陸で商売するってだけでアダガさんの優秀さを語っているようなもの。誰かの言葉なんかで誇らしく思うことねーさ。
「アダガさんが優秀なのはよくわかります。是非、わたしどもと商売していただけると幸いです」
「それはこちらのセリフですよ。よろしくお願い致します」
アダガさんが差し出した手をすぐに握るバイゼルさん。優秀な者は優秀な者をわかるか。是非、イイ商売をしてもらいたいもんだ。オレが豊かに暮らせるように、な。
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