第1656話 一角の人物
「ほんと、ウメーよな」
この世界、品種改良なんて技術ろくにねーのに、たまに元の世界以上の甘さを誇るもんがあるから不思議だよな。
前世でマンゴーなんて一回しか食ったことねーが、そのマンゴーと同じ味がするプララがこの世界にあり、飽きるほど食えるとか幸せすぎるぜ。
「これなら絞って飲むのもイイかもしれんな」
甘くはあるが、クドさはねー。これ、牛乳に混ぜてアイスにするのもイイかもしれんな。あ、マンゴー味のフルー○ェってあったな。今度、カイナーズホームに買いにいこうっと。
「アダガさん。定期的に仕入れてくれよ。うちで買うからさ」
婦人に頼むと青筋立てられそうだからアダガさんがやって欲しいです。
「ほんと、べー様は仕事を増やすのが得意ですよね」
「仕事が増えるなら商人冥利に尽きるじゃねーか」
「尽きさせられては困りますよ」
「大丈夫。オレが死なせねーから」
死にたいと言っても死なせねーよ。
「本当に死なせてくれないからベー様は洒落にならないんですよ。普通に死なせてくださいよ」
「オレが死んでからなら構わねーよ。それまでは死なせねーから安心してくれや」
さすがに死んだらどうにもできねーしな。
「そんな笑顔で言わないでくださいよ。ほんと、アバールはよくべー様に付き合えていられますよね」
「そこがあんちゃんのスゲーところだな。ある意味、突き抜けた男だよ」
普段はヘタれなクセに、ここぞと言うときはカッコよく決めやがる。あれは一種のバケモノだ。
「そう思います。わたしでは太刀打ちできませんよ」
「アダガさんも負けてねーよ。で、どうする? やってくれっかい?」
「やります。そこに儲け話があるのに見過ごしたら商人の名折れですからね」
それでこそオレが認めた商人だ。頼りにしてるぜ。
「ご主人。わたしは、アダガと申します。アーベリアン王国付近で生業をしております。今後もプララを仕入れたいのですが、お時間いただけませんか?」
おっちゃんは、オレたちの会話を耳をダンボにして聞いていた。オレらの関係性はわからなくともアダガさんが商人として一角の人物とは察せられたはずだ。
「もちろんさ。こちらも儲け話となれば大歓迎さ」
やはりこのおっちゃんも一角の人物だな。ロイさん以外にも優秀な商人に出会えてよかったぜ。
「裏で話そうか。プララから作った酒があるんだが、一杯どうだい?」
へー。プララから酒が作れんだ。ってことはブララでも作れるってことだ。今年の春に作ってみようかな?
露店の裏に回ると、立派な店があった。
そういや、ここは有名な通りだ。そこで商売してんだから大棚に決まっている。てか、なんで店の前で露店を建ててんだ?
「まだマリンベルが小さな城塞都市だった頃、ここには露店が並んでいてな、そのときの名残を今も残しているんだよ」
疑問に思っていたらおっちゃんが教えてくれた。
「ようこそ、マルフス商会へ。当主のバイゼル・マルフスです」
偉い人とだとは思っていたが、まさかの当主かい。
「当主自ら店に立つんだ」
「死ぬまで現役を目標にしてますので」
見た目から五十代前半。現役って言ってるところからして六十はいってそうだな。
「オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。自由を愛する村人だ」
「ゼルフィング? A級冒険者、ザンバリット・ゼルフィング様と関係があったりするのか?」
おや。親父殿を知ってるのか?
「オレのオカンと結婚して息子となった」
「ザンバリー様、結婚なされたのか!?」
「ああ。結婚して冒険者を引退したよ。今は……なにしてんだ?」
あれ? なんかしてた記憶はあるが、館にいねーほうが多いから忘れたわ。エヘヘ。
「べー様の仕事を代わってやっていますよ。そもそもべー様がなにをしていたかも謎ですけどね」
ハーイ。昔から自由に生きててごめんなさーい!
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