第1655話 プララ

「べー様。これはブララですか?」


「いいえ。それはプララです」


 思わず中一の英語みたいな返しをしてしまっだが、プララとはイイもんを発見したぜ。


「プララ、ですか?」


「ああ。ブララの甘いヤツだな。たまに南から流れてくるものさ。マリンベルで作られていたんだな」


 同じ種らしいが、南に生るのは甘く、北に生るのはすっぱくなるのだ。


「干したプララは見たことあるが、生のは初めてだ。おっちゃん。今の時期にプララなんてどうしたんだい?」


 同じ種なら春くらいに生るんだがな。


「これはもっと南で採れるものだ。魚を運べねー隊商が持ってきたのさ」


 どこかが減ればどこかが増える。バランスが取れていると言うか、なにが幸いとなるかわかんねーもんだ。


「アダガさん。これは買いだぞ。あるだけ買っておくことを勧めるよ」


 干したものしか食ったことねーが、それでも甘くて旨かったものだ。まあ、ほとんど女衆に食われちゃったけど!


「べー様が勧めるなら買うとしますか。ご主人。金貨一枚でどのくらい買えますか?」


「金貨一枚なら箱で五箱といったところだな。もっと買うなら負けとくよ」


「それなら金貨五枚分買いますよ」


「毎度あり! 豪毅なお客には三十箱にしてやるよ!」


 まあ、露店の裏にはさらに箱が積まれている。結構捌ける商品なのかな?


「おっちゃん。オレにも金貨五枚分くれや」


 金貨を出してみせた。


「今日は豪毅な客ばかりだ!」


 それはおっちゃんもだ。外国人とガキ相手に一切顔をしかめることもねーし、金貨を見せても驚きもしねー。きっと隊商の上位にいるヤツだろう。


「オレらクリンシュ族のロイさんって隊商に世話になってんだが、おっちゃんは知ってっかい?」


「ロイ・マイゼンドだろう? ここで商売しているヤツで知らないもんはいなさ」


「オレら有名人に世話になってたんだ」


「それを見抜くべー様も有名人ですけどね」


「村人が有名になってもしょうがねーよ。アダガさんのような商人が有名になってオレを霞ませてくれや」


 オレは誰かの後ろでコソコソやってんのが性に合ってんだがな。


「あはは。それはアバールさんやチャンターさんに任せますよ。わたしは世界を股にかける商人を目指しますので」


 アダガさんは世界を股にかける商人がご希望か。なら、南大陸にもいってもらおうか。ラーシュと繋ぐ商人が欲しかったしな。


「おっちゃん。手間賃弾むからロイさんの隊商まで運んでくれねーかな? 運んでくれんならすべて買ってもイイぜ。なんなら知り合いの隊商にも声をかけても構わねーぜ。すべて買うからよ」


「わかりました。届けさせてもらいますよ」


「ああ、頼むよ。いっぱい持ってきてくれや」


 プララはいろんな菓子にも合いそうだ。オレはヨーグルトに入れて食いてーな。いや、その前にそのまま食いてーな。マンゴーみてな味だなーって記憶しかねーし。


「あ、いくつかもらうよ」


 銀貨一枚を渡して手提げ篭いっぱい入れてもらう。うちの食いしん坊どもがヨダレを流して待っているからな。


「ほら、好きなだけ食え」


「待ってました!」


「まったく、待たせるんだから!」


 二匹の獣がプララに食らいついた。十分前にたらふく食ったモルゴはどこに消えたんだ?


「なにこれ? 甘いんですけど!」


「わたし、これ好きだわ!」


 それはなにより。でも、もうちょっと上品に食いなさいよ。口の周りがベチョベチョだよ。


「べー様。わたしも食べたいです」


 レイコさんも我慢できねーようでソワソワしているよ。


「ほれ。ユウコさんの胃を壊さねーようにな」


 レイコさん、味は伝わっても満腹が伝わらねーみたいで、加減がわかってねーんだよな。


「大丈夫ですよ。二つで止めておきますから」


 二つ、つかんで食べ始めた。わんぱくか。


 まあいい。オレもいただくとしよう。パクっとな。

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