第1654話 モルゴ(肉ダンゴ)

 マルセール通り、か。なかなか賑わってんな。


「空には飛竜。海には暴竜。漁もできないのに賑わっているんだね?」


 不思議そうなそばかすさん。大図書館に閉じ籠ってたらわかんねーか。


「外の世界は死と隣り合わせだ。今日生きていたヤツが明日死ぬなんて日常茶飯事。死が身近だからこそ今を一生懸命生きてんだよ」


 この時代のヤツは元の世界より覚悟と肝が座っている。死ぬそのときまで生きているし、生き残ったらまた強く生きていくものなのだ。


「やっぱ、そばかすさんは旅に出たほうがイイな。そのほうが成長できると思うぞ」


 他の見習いより世間が見えている。もっと外を教えたらそばかすさんは成長するだろうし、大図書館のためにもなるだろうよ。


「館長が出してくれるとは思わないんだけど」


「出すよ。そのために叡知の魔女さんはあんたらをオレに預けたんだからな」


 叡知の魔女さんもこのままじゃいけないとは思っていたんだろう。その切っかけに使われるのは癪だが、それならこちらも切っかけに使わせてもらうだけだ。魔族の連中も外を知らねーんだからな。


「べー。あれ食べたい」


「また食うのかよ?」


 君、三十分前に自分の身長もあるパフェを食ってたよね? その前はビッグなハンバーガー食ってたよね?


「あれは前座よ」


 いや、本番の量だったよ!


「べーくん。わたしも食べたい」


 この二人がいると食べ歩きになりそうだな。いや、ここにきたときから食べ歩きだけど!


「好きにしろ。ただ、オレから離れんなよな。これ以上の問題はゴメンだわ」


 この二人を放ったら絶対、問題を引き連れてくる。つーか、トラブルメーカーはこいつらだよね! オレは巻き込まれただけじゃん!


「そこにべー様も加わるから問題が大事になるんじゃないですか?」

 

 混ぜるな危険の一つにしないで。問題を連れてきたのはこの二人だもん。


「と、とにかく、集団行動だ。離れたら置いていくからな」


 近くに置いておくなら問題は起こらない、はず。仮に起きたら見なかったことにします。あれもこれもと巻き込まれてられっかよ!


「はーい。あ、これ、なんですか?」


 隔離された世界で生きてたのに、やけにコミュニケーション能力が高いそばかすさん。環境じゃなく資質なんだろうな~。


「モルゴだよ。肉ダンゴを油で揚げて秘伝のタレをかけたものさ」


 へー。油の名産地ってだけはある。肉ダンゴを油で揚げるとか初めて見たぜ。


「これに揚がるだけくれや」


 無限鞄から大皿と銀貨を一枚出した。


「これは上客が来たもんだ。本当に揚がるだけ買うのかい?」


「ああ。なんなら買い占めてもイイぜ。土産にしたいからよ」


 もう一枚銀貨を出して店主さんに見せた。


「アハハ。買い占められると困るが、皿いっぱいは売ってやるよ」


 なかなか誠実な店主さんだ。他の客のことも考えてんだからよ。


 大皿に乗せられるだけ乗せてくれ、大銅貨を二枚返してくれた。


「もっと欲しいなら他の店でも買ってやってくれ。モルゴを売っている店はたくさんあるんでな」


「王都の名物なのかい?」


「いや、魚が入らないから代わりに売っているだけさ。いつもは魚のすり身を揚げたものを売ってんだよ」


 魚のすり身? 薩摩揚げみたいなものか? オレ、コーン入りの薩摩揚げ好きなんだよね。


「美味しい~!」


「見た目から想像できないほどジューシーだわ」


 零れ落ちそうなくらい乗ってたのに、店主さんと話している間に半分くらいなくなっていた。君ら食べすぎ! オレの分を残しておけよな。


「べー様。あそこでもモルゴを売ってますよ」


 アダガさんが指差す方向にモルゴを売っている店があった。本当にたくさんあんな! 商売成り立ってんのか?


 まあ、たくさん商売してんなら食いっぱぐれることもなさそうだ。


「じゃあ、あんがとさんな」


「おう。また買いにきてくれや」


 店主さんに挨拶して別の店に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る