第1649話 クリンシュ族

「……ロイさんは、なんかの部族長なのかい……?」


 国の法律に一夫一妻や一夫多妻とかの明文化されてはねーらしいが、一番とか二番とか順位をつけたりするのは高位貴族とかなにかの部族にありがちだ。庶民なら正妻と妾にわけるはずだからな。


「クリンシュ族と言ってわかるか?」


「いや、わからん。この国では有名なのかい?」


 さすがに外国の部族まで知らねーわ。


「そうだな。子どもでも知っている、とは言えないが、それなりには知られているだろうよ」


 ってことはかなり力がある部族ってことだ。国が変われば集団の在り方も違うんだな~。


「部族長ってことかい?」


「いや、次期部族長だな。今は修行みたいなもので、隊商の一つを任されているところだ」


「随分と商人よりの部族なんだな。家畜を追って平原を移動しているのかと思ったよ」


「昔はそうだったみたいだが、それでは生きられないと隊商を始めたそうだ。今では八つの隊商を組んでいる」


「それはもう大商人どころか国に物申せる位置にいるよな」


 どんな大商会でも隊商なんて一つか二つだ。八つとか組めねーよ。確実に公爵レベルの権力と金を持っているぞ。


「……ロイさん、スゲーヤツだったんだな……」


「おれとしては心臓病を一瞬で治せる薬を持っているお前のほうがスゲーと思うけどな。いったい何者なんだ?」


「言ったようにアーベリアン王国の村人だよ」


「村人は外国に来たり心臓病を治せたりする薬なんて持ってねーんだよ。お前の周り、訂正するヤツはいないのか?」


「いても聞かないのよ、この自称村人は」


「あと、お前の頭にいる……なんだ? 妖精か? これは見えても大丈夫なのか? 見えちゃいけないものが見えているのか?」


「見えてもイイもんだよ。見えちゃいけないもんは見えないようにしてっからよ」


 レイコさんはユウコさんの中に入っている。霊視眼でも持ってなきゃわからんだろうよ。


「……なんとなくお前というヤツがわかってきたよ……」


「わかっても理解されないけどね」


「え、えーと、君は?」


「わたしは、ミッシェル。黒羽妖精よ。べーに付き合っているだけの関係ね」


 乗ってるだけの間違いだろう。食うか問題を引きつけてくるだけなんだからよ。


「もう一人の……派手な服を着たのはなんなんだ?」


「オレが個人的に雇っているメイドだな。ちょっと二重人格になるときがあるが、気にしないでくれや」


 レイコさんとユウコさんの性格、てかオレ、ユウコさんの性格がどんなのか知らねーや。オレの側にいるときレイコさんが取り憑いてんし~。


「そばかすのは帝国の見習い魔女だ。今、うちで預かって勉強させてんだよ」


「うん。なに一つ理解できんな。関係性になんの共通点も見つからねーよ」


 とってもイイ笑顔を見せるロイさん。性格もよさそうだ。


「まあ、少しずつわかっていったらイイさ。しばらくロイさんに世話になるからよ」


「こちらはマオリを治してもらった恩があるから構わんが、もうしばらく王都にいるぞ。魚を手に入れないと出発もできんからな」


「そのことなんだが、ロイさんに紹介したいヤツがいる。魚もなんとかなるし、会ってみねーかい?」


「それは構わないが、隊商を放ってはいけないぞ」


「大丈夫だよ。そう時間は取らせねーし、すぐに帰ってこれるようにする。あ、なんか商品があったら持ってってくんねーか? マリンベル王国のものを見せてーからよ」


 オレもマリンベル王国になにかあるかそれほど知らねー。あるんなら見てみてーな。


「うーん。大したものはないぞ。ほとんどが王都で仕入れたものだしな」


「それで構わねーよ。同じなら同じでアーベリアンからも流せるだろうからな」


 オレには見えねーことでも商人ならなんかわかんだろうさ。


「あ、これをやるよ。馬車一台分のものが入れられる収納鞄ってものだ。試してみな」


 収納鞄を一つ、ロイさんに渡した。


「ハァー。お前の周りにいるヤツが苦労しているのがよくわかるよ」


「その分、儲けさせてやってるがな」


 なぜかため息を吐かれ、商品を集めに消えていった。

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