第1644話 パイルダーユウコ

 ダブルパンチを受けていても流通はそこまで停滞はしておらず、品不足には陥っていないようだ。


 朝市も太陽が昇るごとに人が増えていき、本当にダブルパンチを受けているのか疑うレベルだわ。


「お前ら、まだ食うのか?」


 ここに来て約二時間。食うのを止めない魔女とメルヘン。食いしん坊キャラは間に合ってるって言ってんだろうがよ。


「うん。美味しいのばかりで止められないよ!」


「わたしはさすがに甘いものが食べたくなったかな?」


「あ、いいね! わたしも食べたい!」


 甘いものは別腹な感じじゃねーな。まだ腹には余裕がありますって勢いだ。こいつらの限界はどこなんだろうか?


「あ、甘い匂いがする!」


 そばかすさんがなにかを嗅ぎ取ったようで、みっちょんを頭に乗せて人混みの中に消えていった。問題を引き連れて来ないでよね。


「べー様。体が重いんですけど、なんででしょうか?」


「太陽の下だからじゃね?」


 浄化されてんじゃねーの?


「わたしは太陽の下でも動いてましたよね? どれだけわたしに興味ないんですか!」


 オレ、ホラー系はあまり興味ないんで。幽霊の生態(?)などどうでもイイわ。


「ユウコが疲れてんとちゃうか?」


 だ、誰だ!? どこから声がした?!


「ワイの存在、忘れすぎやないか? しゃべる剣、なかなかレアやと思うんやが……」


「あ、ヨシダか。静かだったら忘れったわ」


 ここでは自己主張しねーと存在を忘れられっからな。しゃべって存在を示していけよ。


「剣がしゃべってたら驚かれるやないか」


「ここでは物や獣がしゃべれたくらいじゃインパクトねーんだよ」


「一番のインパクトがあるのが村人っていうんだから笑っちゃいますよね」


 個性的と言ってちょうだい!


「まあ、いい。ユウコさん、疲れてんのか? ちょっとユウコさんから抜け出してみ」


「わかりました──」


 と、ユウコさんからレイコさんが離脱(って言ってイイのか?)。レイコさんからユウコさんの顔つきになった。


「ユウコさん、疲れたか?」


「す、すみません! わたしは大丈夫です!」


 なにやら怯えたようパニくって謝ってある。まだ酷い仕打ちを受けていたときのトラウマが消えてねーようだ。


「別に怒っちゃいねーよ。疲れたなら疲れたと言いな。体力が戻るまで三日や四日、その場から動かなくてもオレは気にしねーからよ」


「いや、気にしてくださいよ! 地縛霊だって少しは動きますよ!」


「地縛霊と一緒にすんなや! てか、地縛霊が動いたらそれは浮遊霊だろがい!」


「あ、それもそうですね。わたし、地縛霊に会ったことありませんでしたよ。あはは」


 あはは、じゃねーわ! オレはなんの漫才させられてんの? 関西人じゃねーんだからやらせんな! いや、関西人がいつも漫才してるか知らんけどよ!


「ったく。どっか休むとこ探すぞ。コーヒーも飲みてーしな」


 幽霊と魔剣を相手してたら疲れた。コーヒー飲まねーと気が狂うわ。


「ミッシェルさんとライラさんはよろしいので?」


「ガキじゃねーんだ、なんかあったら自分らで解決しろ」


「なんかあること前提なんですか?」


 してねーよ。けど、なんかあったらメンドクセーから捕獲しておくか。こんなところで飛竜とか連れてこられたら大変だからな。


「ユウコさん。小さくすっから頭に乗ってろ」


 伸縮能力でユウコさんを小さくして頭の上に乗せた。


「オレの力で落ちないようにしてっから安心しな。そこで休んでろ」


 なんでそこ? と問われたらそこが忘れないとこなんだよ。ポケットに入れてたらそのまま忘れちゃいそうだからな。


「二人は……あっちか。なにも問題に遭遇してねーとイイんだがな」


 小さな希望を胸に二人のあとを追った。

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