第1643話 ダブルパンチ

 なんだか人がいる街に来るの、久しぶりだな~。


「ハイニフィニー王国のことはなかったことになっているんですか?」


 だって、雪ばっかりでおもしろくもなかったし、買い物もできなかった。なんか脳筋エルフやカバ、しゃべる剣とか街にいるってならなかったじゃん。あれはノーカンです。


「ねぇ、いつ始まるの? お腹空いたよ」


 君、二時間前に食堂でなんか食ってたよね? 


「べー。あっちでなにか煮てるよ」


 視覚もイイなら嗅覚もよろしいメルヘンさん。そばかすさんを操作して匂いの元に進み出した。


 混ぜるな危険なコンビなんだから先にいくなや。また変なのが現れたらどうすんだよ! ったく!


 二人を追っていくと、料理を提供している一角があった。


 いくつの露店が並び、いい匂いで満ちている。けど、港がある街の匂いじゃねーな? なんだ?


「あ、魚を使った料理がねーのか」


 よくよく見たら魚が見当たらねー。そう街の奥って感じでもねー。海鳥が見えるところからして海は五十メートルもねーって感じだ。


「べーくん、食べていい?」


「好きなだけ食え」


 オレも昨日から食ってねーし、朝食もまだだ。ここで食うとすっか。


「魚は入ってねーんだな?」


「あんたら外から来たのかい?」


 おばちゃんに訊いたらそんなことを返された。やっぱ外から来た者ってわかんだな。


「ああ。隣のアーベリアンだよ。川魚を仕入れに来たんだ」


 なるべく子どもっぽくここに来た理由を教えた。


「それは大変なときに来たね。暴竜と飛竜が現れているときに」


 確かに言われてみれば飛竜が出ただけで大事になるわな。そこに暴竜──はアレか。二十メートルくらいあったし、普通の武装船でも転覆させられそうだな。


「冒険者に依頼出さねーのかい?」


 国が対応することかもしんねーが、まずは冒険者に依頼するものだ。マリンベルにも大きな冒険者ギルドがあんだからな。


「今はA級冒険者パーティーが出払ってて、どうにもできないみたいだよ」


 それはまたタイミングワリーこと。王都ならA級冒険者パーティーが一組は残ってても不思議じゃねーんだがな。


「漁にも出られないか。大変だな」


「まーね。漁師も嘆いていたよ」


 魚が獲れなきゃメシが食えねー。よくあることと言えばよくあることだが、空には飛竜。海には暴竜。ダブルパンチでは餓死に転がり落ちてんな。


「お気の毒としかイイようがねーな」


「まあ、まったく獲れないってわけじゃないからね、いなくなるか狩られるのを待つしかないよ」


 戦う術のねーヤツはじっと堪えるしかねー。厳しいようだが、それがこの時代の生き方。災害と同じだ。


 ダブルパンチを食らってもまだ食料事情には余裕がある。そう切羽詰まってねーし、ここのことはここにいるヤツにお任せだ。オレに関わりねーならスルーさせていただきます。


 おばちゃんの露店で大量に食ったら次の露店に。買い物に来たのに魔女とメルヘンの食い倒れ紀行になっちゃってるよ。


 まあ、オレは最初の一軒で腹一杯になったから結界タッパーに詰めてもらって、買い占めてます。


「いつものように目的を見失うんですね」


 それもまた人生よ。寄り道草道回り道オールオッケーさ。

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