第1642話 マリンベルの王都
「べー様。マリンベルに入りました」
ぼんやりしてたら、艦長が声を上げた。
飛竜と遭遇してから約三十分。もうそろそろなので、艦橋にいたんですよ。
「あいよ。世話になったな。また頼むよ」
「ハッ! いつでもお呼びください」
うん。だからいちいちこっち見なくてイイんだよ。前見て操縦しなさいよ。
入って来たように出るときも後部ハッチから空へダイブ。空飛ぶ結界を創り出して降下していった。
「もっと安全に降りられないの~!」
オレの脚にしがみつくそばかすさん。君が脚を拘束してなければ安全に下りられますけど。バランス取れないよ。
「べー様、どこに降りるんですか?」
ユウコさんの体に取り憑きながらオレにおぶさるレイコさん。ちゃんと空飛ぶ結界を広くしてんだから離れろよな。ったく。
「まずは海岸辺りに降りて、マリンベルの王都に向かう」
昔、いったことがあるのは田舎のほうだ。せっかくマリンベルに来たんだから王都を見ておこう。
「この暗さでわかるんですか?」
「問題ねー。海の香りがするから」
山と海がある村で育った村人をナメんなよ。臭いだけで方向くらいわかるってものさ。
ちょい右に方向を調整しつつ降下。落下スピードを緩めながら海面に着水した。
「このままいくんですか?」
「ああ。そう遠くねーみたいだからな」
微かに光が見える。おそらく灯台だろう。デカい港なら灯台があるからな。
光を頼りに空飛ぶ結界──海を走る結界を動かして向かった。
「ベ、ベーくん、危険な生き物とかいないよね?」
「いるよ。ほら」
オレらを襲おうとしていたんだろう。肉食海竜が飛び出してきた。
「たぶん、マリンベルの海によくいるヤツだな。船団を組んで狩ると親父殿が言ってた」
初めて見たが、なかなか凶悪な体つきしてんな。よくこんなのを狩ろうと思うよ。
「今はお前に構っている暇はねー。どっかいけ」
襲って来る海竜を結界パンチでさようなら~。次、襲って来たら刺身にしてやんよ。
「狩らないなんて珍しいですね」
「海竜は人魚の冒険者が毎日のように狩ってくるし、この海はマリンベルの漁師の縄張りだ。他所者が荒らすわけにもいかねーさ」
それに漁業ギルドがある。他所者が売っても買ってくんねーよ。
海に沈んでいく海竜を無視して先を急いだ。
時刻的に朝の三時だろうか? 浜に着くと、篝火が焚かれ、なんか殺気立っていた。なんだ?
「さっきの海竜じゃないですか? ベー様には雑魚でも一般人にしたら脅威でしかありませんよ」
言われてみれば確かにそうか。じゃあ、狩っておけばよかったな。
「まあ、そこそこイイパンチを食らわせたし、他の海竜に食われんだろうよ」
海の中も弱肉強食な世界。ちょっとの怪我で食う立場から食われる立場になるなんてよくあること。ガンバレ、だ。
殺気立つ漁師たちに構わず浜を突っ切り、微かに明るいほうに歩き出した。てか、そばかすさんは離れろよ。歩き難いわ。
しばらく歩くと、篝火に照らされた城壁が見えてきた。
「マリンベルの王都だ」
大きいとは聞いてたが、さすがアーベリアンと並ぶ海洋国家。スゲーもんだ。
「勝手に入れるんですか?」
「親父殿は出入り自由とは言ってたな」
門まで来ると、まだ暗いってのに人の往来があり、門番は人の流れを見ているだけ。誰かを止めている様子はなかった。
オレらもなに食わぬ顔で門番の前を通ったが、呼び止められることもナッシング。難なくマリンベルの王都に入れた。
「これからどうするんです?」
「朝市を探してお買い物だな」
無限鞄のストックも空の状態だ。ここは暖かい地だから冬でも青物は育てられているだろうし、果物もあるはず。イイ機会だから買っておけ、だ。
「そばかすさんも街に慣れておけよ。いずれ世界の食を探しに出るんならな」
狭い世界で学べることは少ねー。学ぶなら大きい世界に出て学べ、だ。
さて。朝市はどこでっしゃろな?
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