第1645話 商人ロイ・マイゼンド

 なにやらそばかすさんが七、八歳くらいの少年にタックルされていた。


「わ、わたしは見習い魔女であって物語に出て来る魔女じゃないよ!」


「魔女なんでしょう! ねーちゃんを助けてよ!」


 そこで傍観してるメルヘン。なにがあったか説明してチョンマゲ。


「説明と言われてもね~。その男の子がライラを見るなりタックルしてきたのよ」


 ほんと、漫画を読んでるだけにカタカナ語が堪能になったもんだよ。


「助けてと言っているところをみると、おねえさんが病気か怪我みたいですね」


 だったら魔女ではなく薬師か医者だと思うのだが、魔女に助けを求めるとかただの病気や怪我じゃねーみたいだな。


「坊主。オレは薬師だ。診てやってもイイぞ」


「無理だよ! ばあ様に診てもらっても無理だったもん!」


 ばあ様が何者かは知らんが、診たと言うならおそらく薬師だろう。どんな薬師だろうな?


「べーくん、助けてよ!」


 しゃねーな。ほらっと少年を引き離してやった。


「魔女様! ねーちゃんを助けてよ!」


 暴れる少年。殴って沈め──静めるか。


「殴ろうとしている時点でどちらでも同じですよね?」


 それは見解の相違ですね。


「──パド!」


 どうしたもんかと悩んでいたら野次馬の中から若い商人風の男が現れた。


「あんたの連れかい?」


「あ、ああ。なにか悪さをしただろうか?」


「いや、連れのもんに助けてくれと突進してきてな、説明を求めてもねーちゃんを助けてくれとしか言わんから困ってたんだよ」


「申し訳ない。落ち着け、バカもんが!」


 波平さんばりに一喝して、少年の頭に拳骨を落とした。ほら、黙らせるには殴るのが一番なんだよ。


「ベー様とは意味が違いますよ」


 同じだろうが。黙らせるという意味ではな。


「だ、だって、ねーちゃんが──」


 うわーんと泣いてしまった。よほどそのねーちゃんが大事なんだろうな……。


「オレはべー。見た目はガキだが、薬師をやっている。そちらが望むならそのねーちゃんとやらを診てもイイ。まぁ、無理強いはしねーよ」


 どこの馬の骨とわからねー上に十一歳のガキだ。信用ならねーのも仕方がねー。断ると言うならさっさと立ち去るさ。


「……手間でなければ是非、診て欲しい」


 と、頭を下げた。へー。おもしろいじゃん。


「あんた、名前は?」


「マイゼンド商会の主、ロイ・マイゼンドだ」


 あんちゃんと同じくらいの歳か。身なりもイイし、一代で、ってより親のあとを継いだ、って感じだな。だが、ガキ相手に頭を下げられる度量を持っている。あんちゃんと初めて会ったときを思い出すな……。


「そうか。なら、礼儀としてちゃんと名乗っておかなくちゃな、お初にお目にかかる。オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。アーベリアン王国の者だ」


「貴族の方で?」


「親が貴族ってだけで、オレは村人さ。まぁ、薬師をやったり商会の責任者だったり自由に生きてるが、気軽にベーと呼んでくれ。ロイさんとは長い付き合いになりそうだからな」


 オレの勘が言っている。こいつは当たりだとな。


「……よ、よくわからんが、ベーと呼ばせてもらうよ」


「おう。そうしてくれ。口調も畏まることねーよ。素で当たってくれや」


「あ、ああ、わかった」


「んじゃ、そのねーちゃんのところに案内してくれや。手遅れになる前にな」


「わかった。こっちだ」


 少年をロイさんに渡し、ねーちゃんとやらがいるところに向かった。

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