第1638話 グルメ魔女
ざわ… ざわ… ざわ… ざわ…
なんか転移してきたら魔女さんたちがざわついていた。なによ?
「べー様が現れたからではないですか」
はぁ? なんでオレが現れるとおかしな牌を見せたようにざわつかれんのよ?
「いや、べー様がなにいっているかわかりません」
うん。軽く流していただけると助かります。
「お、いたいた。そーばかぁすさぁーん、捕まえた~」
屋敷の食堂で書き物をしていたそばかすさん。オレが肩に手を置くと逃げ出した。
「いい判断です」
でも残念。見習い魔女には結界を施しております。世界の果てまで逃げようがオレからは逃れることはできません。まあ、異界とか宇宙とかに逃げられたら追いかけられないけどさ。
「さあ、いくぞ。まだ見ぬ地へ」
オレはいったことあるけど、そばかすさんはいったことねーから間違ってはいません。
「わ、わたし、まだ仕事が……」
「そうか? なら別のヤツに──」
って言ったら食堂から魔女さんたちが飛び出していってしまった。逃げること風の如し、だな。
「……リ、リンベルクは……?」
リンベルク? なんや、それ?
「委員長さんの名前ですよ。そろそろ覚えてあげてください」
オレの中では委員長さん。一年後も百年後も委員長さんは委員長さんだ。
「……覚える気はないってことですね……」
ねーな。必要もねーし。
「委員長さんならボブラ村に帰ったぞ。数千年にも及ぶ人魚の歴史を書くためにな」
まあ、さすがにそんなに書いていたら寿命が来ちゃうが、大まかで構わねーさ。宇宙船があるなら記録装置みたいのがあるはず。エリナでも連れていけばなんとかなんだろう。あいつも永遠に存在できる種族だからな。
「……わ、わたしにはそんなこと無理だよ……」
「別にそばかすさんにはさせねー。人には向き不向きがあるからな」
「この世に数千年の歴史を綴るのに向いている人なんていませんよ。ただただ、リンベルクさんが哀れです」
「大丈夫だって。委員長さんならやってくれるとオレは信じているさ」
「無責任な理想の押しつけはリンベルクさんの人権を踏みにじっているのと同じですよ」
幽霊からの人権論。笑いどころはどこでしたか?
「嫌なら放り出せばイイんだよ。周りの声しか聞こえねーヤツはどうせ滅びるんだからな」
オレは「やーめた!」と言っても文句は言わねー。そいつが決めたなら「イイんじゃね」って返してやるさ。自分の人生を決めるのは自分。そいつが決めたなら他人がグダグダ言うな、だ。
もし仮にそれが受け入れられねーならテメーがやれよ。横でグチグチ言ってんじゃねー、だ。
「そばかすさんも嫌だってんなら他のヤツを連れていくさ」
「ライラ。ついていったほうがいいわよ。たぶん、リンベルクより楽だから。じゃないと、もっと困難な状況のときに連れていかれるわよ」
なにやらそばかすさんを諭すメルヘンさん。あれ? この二人って一緒にさせたらダメじゃなかったっけ?
「楽、なの?」
「そこはなんとも言えないけど、リンベルク以上に酷いことにはならないとは思うわよ。ベーの中ではいつものことっぽいけど」
あんなのがいつものことならオレの日常は奇想天外に満ち溢れ……てますね。奇想天外な転生者ばかりに会ってるしな……。
「一番奇想天外はべー様でしょう」
そ、そうですね。前に自分か奇想天外だと思ったことありましたっけ。
「そ、それで、どこにいくの?」
「海洋国家、マリンベルだ。そこで旨い川魚を捕まえる」
「川魚? 川で泳ぐ魚ってこと?」
「なんだ、魔女は川魚食ったことねーのか?」
帝都にはいくつもの川があっただろう。都会だから臭くて食えねーとかか?
「うん。たぶんないと思う」
「旨いもの食うとかじゃなかったもんな。よし。いっぱい川魚食わせてやるよ」
ボブラ村にはデカい川はねーし、海が近いから川魚をあまり食うことはねーが、海魚にはねー旨さがある。マリンベルの川魚は旨いってんなら尚さら食いてーぜ。
「うん! いっぱい食べたい!」
それでこそグルメ魔女。んじゃ、海洋国家、マリンベルにいきますか!
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