第1634話 エリア水輝館

 どこから持ってきたのか大型のテントが張られ、カイナーズが厳重に警備していた。


「大袈裟だな」


 オットセイ──ミドギドを数匹解剖するだけなのによ。


 博士はかせのあとに続きテントに入ると、なんかよくわからない機材が並んでおり、ビデオカメラが何台も設置してあった。


「宇宙人を捕まえた勢いだな」


 ここはエリア……なんだっけ? 88しか記憶にねーわ。


「……なんでわたしまで……」


 後ろで嘆く委員長さん。サダコ(解剖大好き魔女っ娘ね)がいねーんだからしゃーねーだろう。あと、なぜかカバ美もついて来てます。つまみ食いか?


「よし。まずは一匹やってみるか」


 結界水槽を創り出し、収納鞄から宇宙船の水とともにミドギドを数匹出した。


「これがミドギドですか。変わった生き物ですね」


 魔大陸出身者には変わった生き物に見えるんだな。まあ、戦いばかりしてたら海になんて目はいかんわな。


「なにか狂暴そうですね」


「陸上の狼に当たる生き物なんじゃねーかな?」


 試しにと海竜の肉を出して結界水槽に入れたら食い始めた。


「気がつかなかったが、かなり歯が鋭いな。噛み千切るアゴも強そうだ」


 よくこれを家畜化させて食おうと思ったものだ。普通、草食系のを家畜化するだろうによ。人魚の星ではこれが飼いやすかったのか?


「この星の水でも生きられますかね?」


「どうだろうな? おそらくこいつは人の手が入っている。品種改良されて遺伝子も操作されていると思う」


「なぜ、そう思うのです?」


「より旨く、より強く、より多くの子を産ませる。生きている以上、食料は必要とする。そうなれば安定的に生産しなくちゃならねー。弄るのは自然の流れだ。種は違えど絶対同じ道を進んでいるはずだ」


 神や宇宙人に介入されず、その星に生まれてまっとうに進化してきたなら石器時代、農耕時代とかがあったはず。そこから何千年かけて宇宙に出たかわからんが、食うことを止めてないなら絶対に弄っている。でなきゃとっくに滅んでいるはずだ。


「なるほど。種が生き残るというのは大変なのですな」


「種はいつだって崖っぷちだよ。こうして生きられていることが奇跡さ」


 この奇跡を活かすために先人の知恵を調べる必要があるのだ。奇跡に頼らず、自らの力で生き残るために、な。


 水槽から一匹取り出し、結界で拘束して手術台に乗せた。


「一応、麻酔が効くか調べるとしよう」


「わかりました。量はどうします?」


「人の倍辺りからやってみてくれ。反応するかどうかから調べていこうじゃねーか」


 実験は根気だ。同じことを千回繰り返す気持ちでやれ、と先生が言ってました。


 それは数百年生きられる種族だから言えること。そう細かいことまで調べてられないよ。


 麻酔師? みたいなヤツが注射で麻酔を投入。しばらくして眠りについた。永遠に、な。


「人の倍だよな?」


「はい。倍です。人なら充分に死ぬ量ですね」


 うん。そう言うのは先に言ってよ。オレ、麻酔の知識なんてねーんだからよ。


「まあ、死んじまったもんは仕方がねー。解剖してみるか。これからしばらくテントの出入りはできねー。トイレにはいっておけよ」


 オレは万能パンツ(おしめではない)を穿いているので問題ありません。


「問題ありません。長くなっても構わないよう大人用のを穿いてますから」


 うん。プロ根性を持っててなによりだ。


「あ、べー様。ユウコさんから出るんで少し待っててください」


 知らずに漏らしてたらユウコさん、人前に出れないだろうから待つことにした。


「お待たせしました」


 テントをすり抜けてオレの背中に取り憑いた。この脱着式幽霊め。


「あ、みっちょん」


 頭に手を置いたらみっちょんはいなかった。


「ミッシェルさんなら館で漫画読んでましたよ」


 まったく自由なメルヘンだよ。


「よし。解剖はオレがやる。録画、いいな?」


「問題ありません。十五台で追ってます」


 いや、大杉くんだよ! 三台くらいで充分だよ! 


「まあ、イイ。やるぞ」


 解剖用のメスではなく、愛用のナイフでミドギドの腹をかっ捌いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る