第1631話 ミドギド(オットセイモドキ)
公爵どのたちと別れたところに戻ってくると、なにやら人魚たちが集まっていた。
「べー!」
人魚の中からレディ・カレットが出てきた。
「なんだ、残ってたのか」
念のためと戻ってきてよかった。直接亀裂に向かってたら置いていくところだったよ。まあ、転移結界で引き寄せられるけどな。
「まだ逃げたい人魚がいると言われてわたしが残っていたのよ」
「そうか。じゃあ、連れていくか。王女の兄貴、お前が指揮を取れ。いくぞ!」
返事を待たず亀裂に向かった。
途中、網目の出入口で兵士が現れたが、メンドクセーから以下略で通りすぎた。
「ベー。右」
未だに委員長さんを操るみっちょんがそんなことを口にした。右?
「……オットセイモドキの群れか」
絶滅種かと思ったら数百匹が群れていた。なに食って生きてんだろうな?
「王女の兄貴、あれ、あんたらの家畜か?」
少し後ろをついてくる王女の兄貴に尋ねた。
「ああ。そうだ。ミドギドは我らの主食と言ってもよい。だが、数が減り、いくつかのドグマが動かなくなったことで、食うにも困るようになった」
「捕まえて食えばイイんじゃねーの?」
「おれらはドグマから出るものを食べて生きている。捕まえても食えない」
ん? ドグマから出る? ん? ん? ん? ──あ、もしかして、ドグマとは自動調理機みたいなものか? ってことは、料理はできないと?
いや、水の中の調理は厳しいか。捌いたら血が周囲に広がるし。
待てよ。そう言えば、海竜を捌いていたような記憶があるな。ちなみに人魚は熱の魔法も使えるので、貝殻に入れて熱で調理したり、空気のあるところで火を使ってたりしてました。
「外に出たらまずはミドギドの解体をさせなきゃイカンな」
出されるのが当たり前と思っていたら外では生きられねー。まずは野菜の皮剥きからやらせるか?
「レディ・カレット。先にいっていろ。オレはアレを捕まえてくるからよ」
魔大陸の湖に放つか。あそこならとっくに生態系壊れているしな。
「わかったわ」
列から抜けてミドギドに向かった。
無限鞄から以前、南の大陸の湖で捕まえた魚をワカサギとミサギ(※1300話)を出し、伸縮能力で鮭くらいにデカくした。
「ミサギ、毒がありますよ」
「死んだら死んだで構わねーさ。どのみちここにいたら死ぬんだからな」
早いか遅いかの違いだ。腹一杯食って死ねるなら幸せだろうよ。
ミドギドも食えてないのが、ピラニアのようにワカサギとミサギに食らいつき、あっと言う間に胃に収めてしまった。
「死んだのはいねーな」
「食べたばかりだからなんとも言えませんよ。弱い毒と言ってましたし」
そうだった。なら、すぐには死んだりしねーか。
「ベー様。他からも集まってきましたよ」
レイコさんが指差す方向から黒い塊がこちらに向かってくるのが見えた。
「結構いるな」
ほんと、なに食って生き延びたんだ?
「もしかすると、死体とか?」
あまり想像したくねー答えだな。
「まあ、なにを食おうとなんでもイイか。集まってくれるなら捕まえるのも楽だしな」
あらよっとで一網打尽。伸縮能力で小さくしたら収納鞄にポイっとな。大漁大漁。旗を揚げろ、野郎ども!
脳内で大漁旗をはためかせながら皆のあとを追い、通路に入った。
何事もなく亀裂のところまで到着すると、王女の兄貴がいた。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
そう言うと、穴を上昇していった。
まあ、故郷との別れだ。惜しむのも仕方がねーか。
亀裂から出たら結界で塞ぎ、土魔法で穴を崩しながら上昇していく。
中のヤツらに自力で外に出る方法はもうねーだろう。それが自分で選択した未来。閉ざされた世界でゆっくりと滅びていくがイイさ。
湖面から顔を出すと、雲が割れて太陽が出ていた。
「この太陽の下で死ねるようにしねーとな」
オレのスローライフはまだこれからなんだからな。
「最終回ですか?」
違います。
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