第1630話 ライゼアナ(魚人)
下にいくと思いきや、王女の兄貴は上に向かって泳ぎ出した。
罠に嵌めるような感じはしねーかから、王宮は上にあるんだろう。まあ、ここは宇宙船で移住船だ。居住区は船の真ん中に造り、他は外郭のほうに造るはずだ。
しばらく上に向かうと、なにかの開きっぱなしのハッチが見えてきた。
ハッチは六角形しており、扉は二重になっていた。居住区の仕切りにしては頑丈だな? そんなに重要区だったのか?
ハッチを潜ると、三メートルの球体が壁際に並んでいる。なんだ?
「王宮へ続く通路はすべて閉ざされている。王族だけが通れる通路をいく」
そう言って壁に向かうと、なにかの掲示板? のようなものに手を触れると、その掲示板? のようなものが歪んで通路が現れた。
「ま、魔法ですか!?」
「たぶん、流体金属的なものだと思う」
オレもSFには詳しくねー。液体のように動いたからそうかと思っただけだ。
その通路にも水が満たされているところをみると、よく使う通路っぽいな。秘密通路じゃなく作業路じゃね?
配線的なものは走ってねーが、なにか結晶のようなものが連続で繋がったものが走っている。文明が違うと技術も変わってくるんだな~。
空調、水調か? それも兼ねているのか、水の流れがあった。
じっくり見ていきてーが、王女の兄貴の泳ぎが速くて流し見だ。委員長さん、ちゃんと録画してんだろうな?
振り向いたらみっちょんが委員長さんの髪を手綱のように握って操っていた。まさか、オレも知らず知らずのうちにみっちょんに操られていた!?
「べー様のイカれた思考を操られる者なんていませんよ。わたしですら気が狂いそうになるんですから」
幽霊の気を狂わす思考ってなによ? オレはまっとうなことしか思考してねーよ。
「そう思ってるのはべー様だけですよ。思考があっちにいったりこっちにいったりと渦の中にいるかのようなんですから。落ち着けるのは眠っているときだけですよ」
オレはあなたが光るのにときどき悩まされているけどね!
「ここだ」
王女の兄貴が止まり、今度はタッチパネルみたいなものを指でトントンと叩くと、壁が横にズレた。
……そこはアナログなんだな。いや、アナログと言ってイイかわからんけどよ……。
外に出ると、そこは空気があり、流れるプールのようなところだった。
「ずっと水の中にいるってわけじゃねーんだな」
「水の中ばかりにいると水垢がつく。一日一回は体を乾かす必要があるのだ」
「王族はそれが許される空間で住んでるわけだ」
ちゃんと太陽の光に似たもので照らされており、長椅子のようなものがプールサイドに設置してあった。
「堕落の象徴だ」
ここでは太陽の光に浴びることが堕落になるんだ。閉鎖空間で住むとそうなるのかね?
「地上にいけば当たり前のことになるさ。まあ、強い日差しだと肌が焼けるようだがな」
そう言えば、ウルさんもたまに岩場に上がって日向ぼっこしているときがあったな。あれってそういうわけだったんだ。
「人魚とは長い付き合いだが、知らねーこといっぱいありそうだ」
「他にも我々のようなものがいるのか?」
「結構いるな。海に大きな国を築いたり、湖に住んでたりな。ただ、滅びたのも結構いそうな感じだ」
「海か。本当にライゼアナが生き残っていたのだな」
「ライゼアナ?」
「亜人種、と言えばわかるか?」
「あんたらとは少し違った種、ってことか?」
オレにはどちらも似た姿に思えるがな。
「ああ、そうだ。おれもお伽噺として聞かされたからどんな姿をしているかわからんが、一つの船に閉じ込められて古き星を旅立ったそうだ」
ん? もしかして、ライゼアナとは人魚ではなく魚人のことか?
「もしかして、こいつみたいなものか?」
カバ美を指差した。
「いや、チトンチシャは神の一族であり、我々を古き星から連れ出した存在だ。もっとも、今では悪神となっているがな」
確かにあの傲慢さでは悪神と言われても納得だな。きっと碌なことしてねーんだろうよ。
「あれだ」
と、王女の兄貴がなにかを指差した。
その先にあったのは、サークレット? 冠? みたいな銀の輪っかだった。
「いくつ必要だ?」
いくつ? そんなにあるのか? と、よくよく見たら台の中に五つも収まっていた。
「持てるだけ持っていきたい。あんたはなにも持っていかなくてイイのかい? もう二度と戻ってこれないぞ」
オレは転移結界門を密かに設置しましたけどね。
「なにもいらない。新たな場所で一から始めたい」
よほど辛い毎日だったようだ。なに一ついらないなんてな。
「そうか。まあ、必要なものはオレが用意してやるから身一つできな」
サクッと輪っかをいただいた。他にも持っていけるものはもらっていきます。
「強盗ですか?」
いらないものをいただいているだけです。持ち主だった人がいらないって言ってるんだしさ。
「よし。戻るか」
いただけるものはいただいたしな。
「ああ。わかった」
王女の兄貴は一切躊躇うことなく来た通路に泳いでいった。とっくに覚悟はしてたってわけか。
オレたちもあとに続いた。
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