第1629話 サロン・ザ・プリティーナ

 ヨシダを抜いてヘキサゴン結界を最大に展開。包んだ中の水を無限鞄に放り込んでやった。


「お前らいい加減にしろ!」


 いきなり水がなくなり、まな板の鯉の如くピチピチ足掻いているが、死ぬ様子はない。あ、ちゃんと空気はありますよ。こんなときのために結界で集めた空気を無限鞄に入れておきました。


「ここから出たい者はオレについてこい! 残りたい者は永遠に残っていろ! 二度は言わねー! すぐに決めろ!」


 兵士はうるさそうだからヘキサゴン結界から放り出す。


「ついていく! ここから連れ出してくれ!」


 一人の男がピチピチさせながら強く叫んだ。こいつがリーダーか?


「王女さんと約束した。先を望む者は助けると。その身一つでついてこい。いや、ここにいる者だけか?」


「捕まっている者がいる。その者らも連れてってくれ!」


「ドレミ。わかるか?」


「はい。おおよその場所はわかります」


「助け出してこい。邪魔するヤツは排除して構わないから」


 殺したら殺したで構わない。こっからは生きるか死ぬかの生存競争。生きる者の邪魔をするなら殺してでも生き抜かせてもらいます。


 無限鞄から水を出してヘキサゴン結界内を満たした。


「あんたらは先にいきな。いろは。分裂体の一つに案内させてくれ」


 ドレミ隊は忙しそうだし、いろはに頼むとしよう。よろしこ。


「おれは残る。捕まった者らが心配だ」


「……もしかして、だが、あんた、王女さんの親族かい……?」


 王女さんの名前は一ミリも出て来ねーが、顔だけはしっかり覚えている。目元がそっくりだ。


「メイヤード・アレンタスですよ」


 そんな名前だったかも思い出せねー。なんか一瞬だったし。


「兄のハイルクだ」


「王子様なんだ」


 とてもそうは見えんけど。


「いや、今はただの男さ」


 なにやら事情があるようです。まあ、オレは王子だろうがなんだろうが、そいつがどんな性格かで判断しているしな。まあ、権力があるなら仲良くするけどな。ケケ。


「柵がなくてなによりだ。地上に出たらいろんなところに旅をしてみるとイイ。あんたが見たいと望むならオレが協力してやるよ」


 人魚も世界を知るべきだし、自分のルーツを学ぶべきだ。もしかしたらまだ人魚の宇宙船があるかもしらねー。その交渉役として立ってもらえたらオレに出番が回ってくることもねーからな。


「……旅か。それはいいな。本物の世界を見てみたい……」


「人魚の世界には、仮想空間、なにかの映像を体験できる装置があんのかい?」


「ああ。ロッテアルと呼ばれる失われた世界を旅できるものがある。ただ、触れないのが残念だがな……」


 失われた世界? って、もしかして、人魚がいた星のことか?


「その装置はどこにある? 持ち出せるものか?」


 王女の兄貴に詰め寄った。


「あ、ああ。王族専用のものならなんとか持ち出せるとは思うが」


「よし、そこに案内しろ。それは絶対に持ち帰るぞ」


 人魚の星がわかるならそれは貴重な情報だ。ファンタジーな世界にいてSFな世界が見える。これほどの宝は他にないぞ!


「ファンタジーな世界にいてSFな世界、充分見てません?」


 お黙り。幽霊にファンタジーとSFの違いのなにがわかる! じゃあ、なんだよ? とか返されたら黙秘権を行使させていただきますけど。


「情緒不安定ですか?」


 ある意味、情緒はパリピなほど不安定になってんな。人魚の星だぞ。見てみてじゃねーか! 金では買えねー記録だぞ!


「公爵どのとレディ・カレットは残っていろ。もし、捕まっているヤツらのほうが早く来たら公爵どのも下がれ。もう見るものもやることもねーしな」


「じゃあ、わたしも──」


「記録係はついて来い。その目にしっかり刻み込め」


 王族専用ってんなら王宮だろう。なら、どんなものか記録する必要がある。しっかり脳内に刻めよ。


「あ、わたしデジカメあるよ」


 と、みっちょんが頭から降りて来てデジカメを出した。


「ん? そのキーホルダー、無限鞄か?」


「そうよ。プリッシュに借りたの」


「プリッつあんに? てか、プリッつあんってなにしてんの?」


 どこでなにしてようが構わねーが、無限鞄を貸すほどのことをするってなによ? 気になるわ。


「なにかブルー島でお店出すって言ってたわね。サロン・ザ・プリティーナ、だったかな?」


 なんじゃそりゃ? あのメルヘンは商人でも目指してんのか?


「ま、まあ、なんでもイイ。みっちょん、委員長さんに使い方を教えてくれ」


 小さいデジカメをデカくしてやり、委員長さんに持たせた。


「王女の兄貴、案内しろ。速やかに回収するぞ」


「あ、ああ。こっちだ」


 逃げようとする委員長さんの襟首をつかみ、王女の兄貴のあとを追った。

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