第1627話 滅びの時
穴はそんなに深くはなく、百メートルもなくドーム状の空間に出た。
下には驚くことにビルが立ち並び、ドームの四方の端には大きな扉があった。
「昼間のように明るいんだな」
「人魚も昼起きて夜寝る生き物だからな。昼夜をつけているんだろう」
宇宙を旅する船だ。昼夜を設けるくらい難しくねーだろう。
問題は、そんな技術がありながら逃げ出さなくちゃならねー事態に陥ったってことだ。
これまでのことから宇宙ではなにかが暴れ回っており、星を逃げ出すほどの被害が起こっているってことだ。
こんな巨大な船を造るのだって年単位だろうし、宇宙を旅するなんて百年単位だろう。それだけの船を造るってどれだけの技術が必要なんだろうか? それだけの技術があっても逃げ出さなくちゃならない事態ってなんなんだ? この宇宙にはどれだけ凶悪なのがいるんだよ。考えただけで薄ら寒くなるわ。
「……セーサランか……」
ヤバいものだとは身を持って学んだが、あれはまだ雑魚の分類だったとしたら強いのはどれだけだよって話だ。
「べー。あれ」
みっちょんに頭を強制的に下げられた。オレは君の機動な戦士じゃないんだから優しく扱ってちょうだい。
「戦ってんのか?」
兵士と一般人と思われる人魚たちが争っていた。
「とんでもねーときに来たもんだ」
栄枯盛衰盛者必衰。人魚は何度こんなことを繰り返してきたんだろうな?
「委員長さん。よく見ておけ。国が滅びるときの様子をな。きっとあんたが生きているうちにまた見ることになるだろう。そんとき、自分がどう動くかを今から考えておくことだ」
ご隠居さんと同じ種族で大図書館の後継候補なら三百年くらいは余裕で生きるだろう。
オレには想像できねー時間だが、三百年は国が興り、そして、滅びるに十二分な時間だ。なら、委員長さんは必ず見ることになるだろう。下手したらこの世界の滅びかもしらねー。
「先があるならその目で見たことを後世に残せ。それはきっと未来を築く糧となるはずだからよ」
この世界には人外がいて、カイナがいて、エリナがいるかもしらねーが、それらを纏める者は必要だ。
それが委員長さんじゃなくても構わねー。纏められる者を見つけ出し、そいつを支えるだけでも委員長さんがこの光景を見る価値はある。人魚たちが滅びる意味はあるはずだ。
「……ベー様。人魚を見捨てるんですか……?」
「見捨てるんじゃねー。生きたいと、明日をつかもうとがんばるヤツを選別して地上に連れていくよ」
この船はもうダメだ。だが、一番ダメなのはここにいるヤツらの精神だろう。
あいつらの不平不満、憎しみなんかオレには理解することはできねー。だが、あいつらがもう退けない段階に来ているのはわかる。
中途半端な助けは生き抜こうとしている者らの害になる。今ここで分ける必要があるのだ。
「できることならこの船のデータを持ち帰りてーな」
まあ、ミチコさんのほうがあるから無理してまで持ち帰る必要はねーんだが、ここでの記録はもったいねーと思うよ。
「ドレミ。生きたいと戦っている者に近寄って脱落した者らを密かに者を下がらせろ」
「イエス、マイロード」
ドレミ隊が透明化して戦いの中に飛び込んでいった。
「オレらはあの中央にある球体にいくぞ」
どうもあそこが怪しいとオレの勘が言っている。調べずに帰ったら後悔する。なら、レッツゴー! だ。
ビル群で戦う者らを遠回りして、球体へ向かった。
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