第1624話 男のロマン

 あっさりと捕縛してくるいろはさん。君の戦闘力は五十三万かい?


「申し訳ありません。殺してしまいました」


「構わねーよ。どうせ食うんだからよ。ご苦労さんな」


 別に生きたグラーニが欲しかったわけじゃねー。たこ焼きにして食いたかっただけ。だから死んでてもなんら問題ねーさ。


 なかなかのサイズのグラーニ。きっと一万個は余裕で作れるだろうよ。一生、たこ焼きに困ることねーな。


 死んでれば無限鞄に入れられる。腐ることなく保存できるぜ! と、無限鞄にポイ。魔大陸にいったらミタさんにたこ焼き作ってもらおうっと。


「あんたら、その灯りを辿っていけば王女さまんところにいける。さっさといきな」


 戸惑う人魚たちに先を促した。あれこれ説明すんのメンドクセーし。


「は、はい、ありがとうございます」


 爆乳な人魚さんが頭を下げて皆を引き連れて泳いでいった。


「ここの人魚も頭を下げるってことあんだな」


 お辞儀って文化はないが、頭を垂れるってことはどの種族にもある。頭がある種族は頭を垂れることに敬意や謝罪を見出だすのかね?


「ベー。兵士はどうするんだ?」


「訊くまでもねーだろう?」


 もちろん、身ぐるみ剥いで放置です。


「助けに来たのか奪いに来たのかわからんな」


「助ける報酬としていただけるものはいただいているだけだ」


 オレは人助けに来てんじゃねー。ウインウインな関係を築きに来てんのだ。どちらかが損する関係など対等な関係とは言わねーんだよ。


 人魚が逃げて来たほうへさらに進むと、キノコが見えてきた。


「え? キノコ?」


「いえ、都市よ。ただ形がキノコに見えるだけだわ」


 何気に視力がイイメルヘンさん。水の中でもよー見えるもんだ。


「ん? なんか水が濁っているわね?」


「あ、本当だ。微かに濁っているわ」


 レディ・カレットも視力がよろしいようで、キノコの周りが濁っているのがわかったようだ。

 

 確かに言われてみれば濁っているよう、な? オレにはまだよくわかんねーな。


「浄化システム的なもんが調子悪くなってんのかもな」


 密封された世界。そういうもんが壊れたら命取りだろうよ。


 そう考えると、箱庭──フュワール・レワロは超高性能だよな。何千年と維持できてんだからよ。


 キノコに向かって泳いでいると、なんか網目のものが先を塞いでいた。


「公爵どの、触んなよ」


 腕を伸ばした公爵どのを止めた。


「危険なのか? これと言った怪しさはないと思うんだが?」


「たぶんな。グラーニやオットセイモドキを寄せつけねーもんだろう」


 水の中で電気柵ってわけじゃねーだろうが、宇宙的技術で塞いでいるかもしらねー。下手に触らねーほうがイイだろうよ。


「人魚が逃げて来たってことは、どこかに穴が空いてるか、出入口みたいのがあるはずだ」


「あれじゃない?」


 メルヘンが強制的にオレの頭を動かした。だから止めろって!


 なんでメルヘンって力任せにやるかね? プリッつあんなら首がもげているところだ。


「出入口か」


 やはり網にはなんか仕掛けがあるんだろう。でなきゃ出入口なんて設置しねーだろうからな。


 その出入口には兵士が何人か守っているが、傷を負った者ばかり。強硬突破されて傷を負った者が残された、って感じかな?


 兵士たちがオレに気がついて槍を向けてきたが、傷の具合から戦うのは無理ってのがよくわかる。職務に忠実なのか、逆らえないのか、まあ、どっちにしろ捕縛でハイ、終了。


「兵士の数、少なすぎね?」


 ここに住んでいる人魚の数を考えたら兵士は五百から千って感じだと思うんだがな?


「他のところも守っているんじゃないか?」


「あー。それもそうか」


 亀裂からここまで約三キロ。全体を考えたら十キロはあるかもしんねー。


 そんなものが地上に降りられて、地下に埋もれられたものだ。


 出入口に機械的なものはねーが、壁にマトリカ(タブレット的なものね)が何枚か嵌め込められていた。


「制御盤かな?」


 まあ、よくわかんねーもんは触らんほうがイイだろう。自爆とかあったら困るし。


「ベー様じゃないんだし、そんなバカな機能なんて普通はつけませんよ」


「そこをつけるのが男のロマンだ」


 オレなら絶対つけるがな。


 出入口はスルーして網の中に入った。

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