第1618話 マーガレット(カバ美)

 目覚めると、外は猛吹雪だった。


「寒そうだ」


 水輝館はヘキサゴン結界で包んでおり、部屋には暖炉もあるので寒くはねーが、窓の外の猛吹雪を見ていると寒気が襲ってくるよ。


「べー。こんな中で湖に入るの?」


 ネグリジェを着るメルヘンが窓の側に立って震えている。


 ……メルヘンって見えないところをセクシーで決めるよな……。


「湖の中に吹雪は関係ねーよ」


 オレの結界を纏わせるのだから寒さなんて関係ねー。ウェットスーツを着るのは動きやすくするためであり、中で垂れ流ししてもいいように配慮するものだ。普通の服を着て垂れ流すのは抵抗があるからな。


「嫌なら残っててイイぞ」 


 いつもいるんだかいねーんだかわかんねー存在なんだからよ。


「いくわ。知らないところにいくって楽しいし」


 だったらそれを態度で表せよ。たまに結界を纏わせるのを忘れそうになるんだからよ。


 パジャマ仕様の服のまま一階に降りると、第六夫人とレディ・カレットが風呂から上がってきた感じだった。


「おはよーさん。朝風呂かい?」


「ええ。べーのところはお風呂がいつでも入れるから楽しいわ」


 朝風呂を楽しいと感じるようになったか。完全にうちの生活に感化されてんな。


「それはなによりだ。オレも朝風呂を浴びてくるよ」


 ハイニフィニー王国じゃ、その日の風呂もままならなかったからな。いや、結界湯船を創って入ってはいたけどね。


 さっぱりしていつもの服に着替えて食堂にいくと、委員長さんがいた。どったの?


「……魔大陸のことを報告に来たら捕まったのよ……」


 よく見たらカバ美にのしかかれていた。どういう状況?


「マーガレットは大図書館の初代と関わりがあるそうだ」


「初代? あぁ、テイラーさんか。お前、テイラーさんを知ってんのか?」


「カバ美さんがマーガレットってのはガン無視ですか?」


 オレの中ではカバ美はカバ美。それ以上でもなけりゃそれ以下でもねー。


「ライメリアはわたしの友達よ」


「てことは、三百年前に生きてたのか。お前も先生に改造された口か?」


 首に傷はねーがよ。いや、カバ子は首を切られたんだっけな。


「わたしは、ライニーグを守っていたのよ。なのに、こんなところに連れてきて」


「先生のねーちゃんはもうダメだ。静かに死なせてやれ」


「わかっているわよ! それでも側にいたいと思うのが友達でしょうが!」


 下僕ってわけじゃなかったなか。道理であんなファンシーな部屋で暮らせていたわけだ。


「それは無理矢理連れ出して悪かったな。で、なんで委員長さんに乗りかかってんだ?」


 そこからどうなればそうなるんだ?


「この子は、ライメリアの流れを汲む子よ」


「委員長さん、なんか名門の家の出じゃなかったっけ?」※1518話


「サイリーズ家でしたね」


 あーそうそう。そんな家名だった、け? よく覚えてねーや。アハハ。


「初代様と繋がりがあるなんて聞いてないわ」


「あなはライメリアの血をよく引いている。顔も匂いも魔力もライメリアに瓜二つだわ」


 カバに人の顔の見分けがつくんだ。オレにはカバ子とカバ美の顔つき、まったくわかんねー。ただ、態度や雰囲気はまったく違うがよ。


「そうか。友達の子孫に会えてなによりだ。あ、メイドさん。朝食ちょうだい」


「興味なしか!」


 公爵どのが突っ込んでくるが、興味はある。だが、今は朝食だ。詳しいことは暇なときに聞かせてもらうよ。


 朝食を出してもらい、今日を生きるためにしっかりと食べた。あー旨い旨い。


「べー様。ご注文のウェットスーツが届いております」


 食後のコーヒーを飲んでいると、青鬼のメイドさんがやってきた。ロクジュ族意外にもいたんだ。


「委員長さんのもあっかな?」


「五十着用意したので問題ありません」


 それはよかった。カバ美はそのままでイイだろう。カバにウェットスーツを着させても爆笑するだけだしな。


「わたしもいくの!?」


「記録係は必要だろう?」


 なに言っちゃってんだろうね。自分の立場を忘れんなよな。


「いや、そのために留学しに来たんじゃないと思いますけど」


 叡知の魔女さんはオレに任せた。なら、記録係も立派な勉強だ。


「……だから来たくなかったのよ……」


 カバ美にのしかかれながらさめざめと泣く委員長さん。ガンバ!

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