第1616話 王女の覚悟

「オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。周りからはべーと呼ばれている。王女さんもべーと呼んでくれや」


「では、べー様と呼ばせていただきます」


 アクティブな上に話のわかるのは王女の必須能力なのか?


「村人に様はいらねーが、まあ、呼び捨てにもできんだろうからそれで構わねーよ。ダーティーさんからオレのことは聞いているかい?」


「あ、ダーティーさんとはハミーさんのことですよ。この方、単純な名前しか覚えられない人なので」


 な、長い名前だって覚えられるもん! ただ、興味ねーから忘れるだけだもん!


「あ、わたしは幽霊のレイコです。このユウコさんの体を借りてます」


 うん。まず理解できないから黙っておこうね。王女さん、苦笑いしてるじゃないのよ。


「地上にはいろんな生き物がいて、精神体だけの存在もいる。ここにいる者だけでも四種類の種族がいる。長いこと閉じ籠っていたあんたらには理解し難いことだろうが、地上にはたくさんの種族がいるってことは頭に入れておけ。でないと、生き残れねーぞ」


 鎖国状態でいきなり開国しろってのも難しいだろうが、生き抜くには飲み込んで噛みしめて受け入れるしかねー。じゃなきゃ生存競争に負けるだけだ。


「まあ、いきなりたくさんの種族と付き合えとは言わんよ。まずは人魚に理解ある種族を窓口とするよ」


「自分が、とは言わないんですね」


 言うかよ。メンドクセーことになるんだからさ。


「ここにいる者たちは地上で暮らすことを望む者らかい? それとも地上と争う者たちかい?」


「地上で暮らすことを望みます。争いは望みません」


「じゃあ、その対価としてなにを差し出す?」


「わたしの命を差し出します」


「却下だ。あんたの命で救えるのは別の命一つ。王女の命なんて地上じゃ価値ねーんだよ」


 今にも滅びそうな国の王女なんて銀貨一枚にもなりゃしねー。逆に維持するのに金が出ていくわ。


「…………」


 自分の命を差し出せば助けてもらえると思ってたんだろうな。アクティブで度胸はあるが、世間知らずではあったようだ、


「まあ、未来はあんたらの労働で返してもらうさ」


「……べー様……?」


「つまり、べー様はあなたの覚悟を確かめた、ってことですよ。べー様はハミーさんと出会った頃から先を見据えてましたからね」


「まったく、お前の未来視かと思うほどの先読みには呆れるよ。そういうのは教えておけよな」


「先なんて誰にもわからねーよ。ただ、いくつかの道を想定して用意しておいただけだ」


「それができたら誰も苦労しねーんだよ!」


 いや、オレも苦労してんだけど。こんな難題、簡単に解決できるわけねーだろうがよ。


「誰もできねーからって放り出すこともできねーんだから頭から煙を吹いても考えろ。滅びたくねーならな」


 どこの世界も弱肉強食。考えを止めたときが種の滅亡だ。


「館管理長さん。人魚のメイドは?」


「湖の中に五人を配置しました」


 メイド長さんか? 仕事が早いこった。


「公爵どの。ちょっと館の地下を改造するが、問題ねーな?」


「あ、ああ。なにをするのだ?」


「避難所を造るんだよ。これから逃げてくるだろう人魚を収用できる場所をな」


 湖はそれなりに広いが、数千人も収用できるほど広くはねーし、食い物が取れるわけでもねー。魔大陸に移すとしてもまだ湖に住めるほど水質もよくねー。移るにはまだ時間がかかる。


 数千人、とまではいかなくとも数百人は収用できる場所は築いておくべきだろうよ。


「まずは地下避難所を造ったらクレイン湖と繋ぐ。あと、王女さん。兵士は何人いる?」


「兵士は皆国にいます。お恥ずかしいですが、残留派と移住派が争いを起こしてしまい、女子どもを逃すのがやっとでした」


 ハァー。面倒なときに面倒なことを起こしてくれるぜ。


「しゃーねーな。一時的にクレイン湖に避難させるか」


 クレイン湖もそう広くはねーが、一時避難なら問題ねーだろう。あそこなら食料を飛空船で運んで来れるしな。


「岸に転移結界門を設置して、今いるヤツらをクレイン湖に移す。館管理長さん。メイド長さんに連絡してクレイン湖にいる人魚に説明してくれるように伝えてくれ」


 あの人なら上手くやってくれるはず。オレはできると信じているぜ!


「メイド長さんからしたらいい迷惑でしょうがね」


 そのときは全力土下座で許しを乞います。


「畏まりました。すぐに伝えます」


「じゃあ、その間に簡単な避難所を造っちゃいますかね」


 なんか土木作業ばかりしてる今日この頃だが、やるからには満足いくものを造りたくなるのがオレ。やりまっしょい!

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