第1615話 アクティブ

 バイブラスト公爵領アルベカ、だったっけか? 水輝館みずきかんがある場所は。


 湖がなんて言ったか忘れたが、まあ、水輝湖とかで構わんだろう。滞在しているヤツらが違う名前で呼んでたらすぐに変えるけど。


「こっちもこっちで雪が深いな」


 体を結界で纏っているから寒さは感じないが、周りの息や厚着で氷点下になってる感じっぽいな。


「アルベカは他の地より雪が降るからな。半年近くは雪に埋もれるよ」


 まあ、雪国ではよくあることだよな。よくここに別荘を建てたものだ。って、前も同じこと思ったな。


「お帰りなさいませ」


 館管理長さんと同じ種族のメイドさんが迎えてくれた。


「寒くねーかい?」


 寒さに強いと言うロクジュ族だが、メイド服は厚着だ。やはり寒いのか?


「適温です」


 そうかい。それはなによりだ。なら、一族を連れて来れるよう公爵どのに話を通しておくか。


 館の中を通って水輝湖へ。なんか人魚が増えてんな。


「避難して来たのか?」


「はい。住み処では死人も出ているそうです」


 答えてくれたのは第六夫人。前に来たとき結界を張っておくんだったな。


 結界を張り、気温二十度くらいに設定した。


「ん? なにかしたのか?」


「結界を張った。冬の間はこの気温のままにしておくよ」


 ロクジュ族には暑いかもしれんが、公爵の嫁を寒空の下に置いておけんからな。


「何人くらいいるんだ?」


 てか、湖にたくさん浮かんでいる花の蕾みたいのはなんだ? メッチャデカいんだけど。


「ハミー様の話では三百人はいるそうです」


「三百人か。なら、人魚の数は一万はいねー感じだな」


 いや、五千もいたら御の字か? その中から万が一を考えて三百人を選んで先に連れて来たんだろうよ。


 ……それだけ深刻ってことか……。


「バイブラストとしては人魚をどう扱うんだ?」


「正直に言えばどこかにいって欲しい」


 バイブラストとしては受け入れられないと判断したわけだ。まあ、わからなくはねーけどよ。


「他種族が一つのところで暮らすのは難しいんだな」


 まったく、人だけで固まっているところは他種族に寛容じゃねーから困るよな。皆違って皆イイってねーのかね?


「そんなことできるべー様が変なんですよ」


「お前の場合、差別どころか区別してるのも怪しいところだよな。てか、連れてきたなにかが今にも殺しそうな目でお前を見てるぞ」


「こいつカバ美。親父殿の実家にいた珍獣だ」


「珍獣はお前だよ」


 誰が珍獣じゃい。オレほど人らしい人もいねーぞ。


「べー様を人と思っている方のほうが少ないと思いますよ」


「あと、この少女はなんだ? なにか中身がお前に憑いている幽霊っぽいが」


「レイコさんに体を貸しているユウコさんだ。親父殿の故郷で出会った」


「ザンバリーの故郷、どこの異世界だよ?」


 異世界って言葉あったんだ。異界なら魔王ちゃんから聞いたけどよ。


「ハイニフィニー王国だよ。数日前に王弟さんを王にしてきた」


「うん。こいつなにを言ってるんだ?」


「話せば長くもなります。やっていることはメチャクチャですけど」


「想像もつかんが、ベーがメチャクチャやったってのは理解できるよ」


「時間ができたらザンバリー様に聞くのがよいかと。まあ、ザンバリー様も全体の三割も説明できないでしょうが……」


「こいつのやることの二割も理解できたらマシなほうだ」


「そうですね。わたしも近くで見てるのに理解できないことばかりです」


「うっさいよ。おしゃべりするなら館にいってろや」


 ったく。本人がいる前で貶めてんじゃねーよ。


 外野がガヤガヤやっている間にオレに気がついた人魚の女がこちらにやってきた。


「ベー殿でしょうか?」


「ああ。そうだよ。あんたは?」


 なにやら上品な雰囲気を纏わせているが。珍しく髪飾りまでしてるよ。


「わたしは、アレンタス王国王女、メイヤード・アレンタスと申します」


 また王女か。人魚界の王女はアクティブだよ……。

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