第1602話 フガ男

 無駄に大きな扉を潜ると、王座のような席に干からびたばーさんがいた。


 先生のねーちゃんとは言え、年上過ぎね? 今にも死にそうだよ!


「……誰だい……?」


「あんた妹、プリグローグの生徒だ。頭のイカれた妹とのこと、忘れてねーだろう?」


「ご主人様を貶めるとき、べー様も自分自身を貶めてますからね」


 深淵を覗いているとき、深淵もまた覗いているみたいに言うなや!


「……叡知の前にその者の性格は関係ないんだもん……!」


 作品と作者は別というヤツだい!


「……まったく、騒がしいヤツらだよ……」


「ほら、レイコさんが騒ぐから怒ったじゃないか」


「騒いでいるのはべー様でしょ!」


「おい、べーやん。なんか凶悪のが出てきたで」


 ヨシダの声に辺りを見回すと、金棒を持ったフガ男くんが出てきた。


「フガフガ」


「あんたと戦う気はねーが、ヤろうってんなら相手になってやるぜ」


「フガフガ」


「ふん。見た目に騙されると痛い目に合うぜ。まあ、神経がねーから痛みなんて感じねーだろうがな」


「フガフガ」


「おーおー粋がっちゃて。怖い怖い」


「……意志疎通できてることのほうが怖いですよ……」


 ニュアンスで語っているだけだ。なに言ってるかなんてわかんねーよ!


 金棒を振り上げて襲ってくるフガ男。ヨシダを抜いて受け止めた。


 おそらく先生が造ったのだろう。オーガにも負けねー力を出しやがる。並みの冒険者なら受けただけで剣が折れて腕がも切れていることだろうよ。


「フガフガ」


「お前も」


「なにが?」


 ちょっと黙っててもらえます? 今、男と男の戦いをしてんだからよ。


「レイコさん。ヨシダを持っててくれ」


 今はユウコさんに乗り移っているのでヨシダを放り投げた。あ、なんでよけんのよ?


「刃物を投げないでくださいよ! ユウコさんが傷つくじゃないですか!」


「……傷ついているのはワイのほうやで……」


 あ、人外ばかりだったからユウコさんが普通の人だってことを忘れていたわ。傷つくような脆さなら溶鉱炉に入れて鉄塊にしてやるよ。


「こっからが本番だ」


 ズボンのポケットから殺戮阿吽を抜いて構えた。金棒相手に剣は失礼だ。こちらも棍棒バットで受けて立とうじゃないか。


「フガフガ、フガ」


「殺戮阿吽。オレの相棒だ」


「フガ」


「ふふ。こんな場所でなければイイ関係になれたかもな」


「フガ」


「お前らほんとなに言ってんだ?」


 なんか突然柄が悪くなった幽霊だが、それに突っ込んでる余裕はねー。全神経をフガ男に向けた。


「フガ」


「ああ。さっきのお返しだ。しっかり受け止めろよ」

 

 フフ。燃えてきたぜ!


 フガ男が金棒を構え、オレは殺戮阿を振りかぶって襲いかかった。

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