第1601話 ライニーグね!

「……お前、なんてことを……」


「覚悟を決めろ。双子を守りたいならな。親父殿がゼルフィングを継がなきゃ親父殿らを覆う闇は晴れねー。必ず双子に害が及ぶ。未来を守りてーなら親父殿がすべてを引き受けろ。オレが断ち切らしてやるからよ」


 ゼルフィングは繁栄しただろうが間違った方向に繁栄しちまった。ここで断ち切らなきゃ闇はずっと続くだろうよ。


「おばちゃんたち。……なんだっけ? 先生のねーちゃん?」


「ライニーグ様よ」


 よし。レイコさん、覚えたかい?


「自分で覚えてくださいよ」


 おいおい。忘れっぽいオレに無茶言うなよ。なんのためにレイコを連れてると思ってんだよ?


「人魚の知識を教えるためですよね?」


 それは昔の話。今はおもしろ物知り幽霊先生になってます。


「もっと幽霊を大切にしないと呪われるんですからね!」


 そんときは殺戮阿吽で悪霊退散してやるから安心しろ。そして、神に会えたら転生できるように懇願しな。


「その、なんだ、なんだっけ?」


「ライニーグ様ですよ。三歩も歩いてなければ十秒も過ぎてないですよね?」


 オレは都合の悪い過去は振り返らない主義だ。キリッ。


「なんて漫才してる暇はねーんだよ! その、なんだ、ライトニングに会わせろや!」


「……ご主人様に一度その頭を改造してもらったほうがいいですよ……」


 転生者の脳を調べたいと、精神攻撃してきたマッドサイエンティストに改造されたらオレはこの世からいなくなるわ!


「ほれ、そのランニングに会わせろや」


「……もう勝手にしてください……」


「親父殿は残ってゼルフィング家を纏めあげろ。メイドとボーイは親父殿を補佐しろ。案内してくれ」


「こちらだ」


 中央の席に座っていたおばちゃんが背後のカーテンを開けると、なにか厳重な扉が現れた。またベタなところに作ってんな。


「いくつもある扉なんじゃないですか? ご主人様もいろいろ扉を作って迷ってましたから」


 頭がイイのに思いつきで行動してるからな、あのマッドサイエンティストは。


 なにか魔法がかかった扉なようで、よほど侵入されたくないようだ。


 扉にかかった魔法を解くと、なにやら獣の臭いがしてきた。


「マルサリーナ。下がりなさい」


 扉が開かれると、そこに巨大な黒狼がいた。番犬か?


「なかなか立派な黒狼だな。たくさん毛皮が取れそうだ」


 囲炉裏間に敷いたら温かそうだ。


「手出しはさせないから殺さないでおくれ」


 それは残念。襲ってきたら正当防衛で毛皮にしてやるのによ。


「そんな欲しそうな顔で見ると恐れられますよ」


 なにかを感じたのか、黒狼が階段を下りていってしまった。チッ。勘のイイ獣は嫌いだよ。


「かなりありそうだな」


「こちらからいく」


 オレ、階段怖い病なんだけど。と思っていたら横にエレベーター的なものがあった。階段は囮かぁーい!


 エレベーター的なものに乗り込み、どこかに転移した。エレベーターじゃないんかぁーい!


「無駄に凝ってんな」


「そういう方らしい」


「先生の血を感じるな」


 吸血鬼なだけに、ってか? 笑えねーよ!


 転移した先は……どこだ? 六畳くらいの、なにもない部屋だが。


「わたしらは白の館と呼んでおる」


 部屋から出ると、犬耳獣人のフガ子さんがいた。


「フガフガ」


「ここのフガ子さんもしゃべれんのかい!」


 ほんと、マッドサイエンティストなんだからしゃべれるようにしろや!


「フガ?」


「どうしました? みたいな顔すんなや!」


「フガフガ」


「いいよ。お前を造ったマッドな先生がワリーんだからよ」


「なんで会話できるのか本当に謎ですよ」


 ニュアンスでわかるだけだ。


「よくあのフガフガでわかるものだ。長年仕えるわたしでもわからないと言うのに」


「それが普通で、べー様が異常なだけですよ。わたしも二百年一緒にいましたがまったく理解できませんでしたからね」


 意志疎通できないまま二百年も一緒にいることのほうが理解できんわ。


「変態だな」


「ええ、変態です」


 うっさいよ! オレで打ち解けてんじゃねーわ。さっさとリスニングのところに案内しろや!


「フガフガ」


 犬耳獣人のフガ子さんを急かせて案内させた。

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