第1603話 ゲームセット

「……わたしたちは、なにを見せられているんでしょうね……?」


「いつもの茶番でしょう」


 オレらの殴り合いを理解せぬ幽霊とメルヘン。これが少年漫画ならわかってくれる大きな少年はたくさんいるのに……。


「あぁ、そうでした。プリッシュ様がいないからべー様に毒されてました。やはり、べー様には冷静に突っ込める方が必要ですね」


「わたしは、プリッシュほど突っ込み力はないからね」


 突っ込み力ってなんだよ? そんな力、初めて聞いたよ!


 クソ! 男と男の戦いを繰り広げてんだから大人しく木の陰からハラハラドキドキしてろや、男を理解できない女どもめ!


「ドレミ。長引きそうだからお茶にして」


「あ、わたし、マテ茶が飲みたいです」


「畏まりました」


 こちらのシリアスに構わずお茶を始める女ども。これはオレの物語なんですけど!


 クソ! 理解してくれぬ味方より理解してくれる敵(フガ男)。お前だけがオレを理解してくれる強敵(とも)だよ!


「フガ!」


「ワリー! 今集中するべきはお前だったな!」


 そうだ。外野の雑音に構っていたらフガ男に失礼だ。全身全霊でぶつかれだ。


 フガ男の素体はオーガだろうか? 先生により肉体改造されてオレの肉体に匹敵している感じだ。ただ、フガ男の生命エネルギーは仕込まれた魔石だろう。そのサイズで出力が違ってくる。


 この力だと、かなりデカい魔石を仕込まれていると見るべきだろう。いや、魔石を数個仕込まれているかもしれんな。先生でも竜を捕まえるのは一苦労だからな。


 結界を無視してフガ男の攻撃が手のひらに伝わってくる。どんだけ改造してんだよ? オレじゃなかったら挽き肉になっているぞ。


 だが、まだオレのほうが上だ。衝撃は伝わってくるが、殺戮阿吽にヒビは入らない。サリネ、いったいなんの木で作ったんだ? 並みの木じゃ折れてるぞ!


 力が入った一撃。なのに、動きが速い。どんな重心してんだよ?


 ガンガンと殺戮阿吽と金棒の衝撃音に耳が痛くなってきた。なのに、耳を塞ぐ結界も発動できない。油断したら圧し負ける!


「──熱くなってきたぜ!」


 戦いに興味などないオレだが、金棒を持っているヤツに負けたくはない。いや、フガ男に勝ちたいのだ。


「こっから本気でいくぜ!」


「フガ! フガフガ!」


 おれもだとばかりにフガ男の一撃がさらに重くなった。


 まあ、それはオレも同じか。フガ男の目に力がこもり始めたんだからな。


 打ち合いは三十分以上続き、決着のときがきた。フガ男の金棒にヒビが走り、吽の一撃で砕け散り、一瞬の驚愕の隙を突いて阿でフガ男の横腹にクリーンヒット。痛みはないだろうが、込められていた力が抜けてバランスを崩した。


 そこにフルスイングの吽をこめかみに入れてやった。かったっ!?


 どんだけ堅い頭してんだよ? 手が痺れたわ!


「ゲームセット。オレの勝ちだ」


 白目を剥いたフガ男に勝利宣言をしてやった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る