第1599話 浄化

 で、やって来ましたゼルフィング伯爵のお屋敷に。


 森の中にある屋敷は高い壁に囲まれており、外との繋がりを拒絶しているようだった。


「まあ、センガルドに破壊されたら意味ねーがな」


 つーか、ゼルフィング伯爵がセンガルドを飼ってましたってイイ証拠だな。


「門番とかいねーんだな」


 門のところまで来たのだか、門を守る存在がいねー。客が来たらどうすんのよ?


「本家には庭師がいるんだよ」


「額面通りの庭師じゃねーよな?」


「そうね。ゼルフィング伯爵家の暗部よ」


 とはマリア。そういや、マリアは本家の、伯爵の娘だったっけな。


「ボーイ諸君。庭に潜むヤツらを捕まえろ。抵抗するなら殺してもイイからよ」


 さすがに生け捕れとは命令できねー。大切にするべきは身内だからな。


「いや、ゼルフィング家の主としてザンバリット・ゼルフィングが命令を出す。生け捕れ。手こずるようなら殺せ」


「はっ──」


 さすがA級冒険者まで登り詰めた男。迫力あるね~。


「カッコイイ親父殿だ。ロンとミラが大きくなったら親父殿の武勇伝を語ってやろう」


「止めてくれ。オレは普通の父親でいたいんだからよ」


 フフ。普通の父親ね。まさか、子を持つと百八十度変わっちゃうタイプだったとは思わなかったよ。


 ボーイに門を開けてもらい、敷地内へ入った。


 よく整備された道を百メートルくらい進むと、なかなか立派な館が見えてきた。


「この建築様式、どこかで見たな?」


 元の世界でもあったな。屋上に植物を生やした建物。あれを指輪な物語に落とし込めたような感じだ。イマジネーションのコスモを燃やして考えてくれ。


「ご主人様の館に似てますね」


「あー先生のな。そういや、こんな感じの館だったわ」


「先生?」


「昔、親父殿たちに血を集めさせた吸血族のヤツだよ。前に言わなかったっけか?」


「あ……そう言えば聞いたな。お前の知り合い多くてすぐには思い出せんわ」


 確かに知り合いは多いが、先生はトップ3に入るくらい一度見たら忘れられない存在だよ。


「ご主人様に匹敵する方があと二人いるほうが驚きですよ」


 ちなみにエリナとかの論外どもは外しております。


 館の前に到着。馬車が止まった。


「申し訳ありません。館に入れませんでした」


「気にしなくていい。この館は昔から不気味な力を纏っているからな」


「確かに怨念とかが満ちてそうだな」


 こういうのはさっさと清めておくのが吉。魔剣ヨシダを鞘から抜いた。


「ヨシダ。我に力を!」


「いや、別に普通に使いなはれや。中二か」


 意外に辛辣ぅ~!


「まあ、ヘキサゴン結界二倍! そして、浄化!」


 で、怨念よさようなら~。来世はよきものであることを切に願うよ。


「……相変わらず容赦がない方ですよ……」


 ネチネチグチグチして人を呪うだけの存在に寄り添ってやる必要はねー。さっさとあの世に送ってやることのほうが親切だわ。


「お前の力はほんと非常識だよな」


「低級のを浄化したまでだ。大したことねーよ」


 これで特大級のを浄化できたらイイのだが、あいつらは魂の奥底まで腐ってやがる。下手に手を出したらこちらまで腐らさせられるぜ。


「まあ、浄化はされた。お邪魔させてもらおうぜ」


 ヨシダを鞘に戻し、堅く閉じた扉を蹴破ろうとしたら、中から開かれた。


「いらっしゃいませ。主がお会いしたいそうです」


 現れたのは王さまの部屋から放り出したあの男だった。


「アルティスか?」


「お久しぶりです。ザンバリット様。何十年振りですかね? すっかり大人の顔になられて」


 人外って感じじゃねーが、なにか長命種の血でも混ざってんのかな? エルフの血ではないっぽいが。


「……お前はあの頃のままだな……」


「これでも老いましたよ。そちらの方にあっさりと放り出されましたからな」

 

「気にするな。こいつは変態だからな」


 せめて非常識と言って。人聞きが悪いじゃございませんか。


「そうでしたか」


 いや、受け入れんなや! 素直か!


「ともかく、中へどうぞ。こちらは反抗する気概はありませんので」


 最終兵器だったか、センガルドは?


 まあ、争う気はないようなので、ゼルフィング伯爵の館にお邪魔させてもらった。

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