第1598話 センガルドの卵

 ハイ、四つ首の竜は倒されましたー! お疲れ様でーす!


「特等席で観たかったわ」


 存在感0のメルヘンがなんか言ってるが、オレは竜退治など興味ナッシング。その素材には超興味はあるがな。


「親父殿。ゼルフィング伯爵んところにいく前に竜を回収するな」


 相当長く生きているっぽいし、その血と心臓は格別なものだろう。竜の違いによってエルクセプルの効果を知りたいしな。


「……お前といるとこれまでしてきた冒険が小さく思えるよ……」


「なんだ? また冒険がしたくなったか?」


「いや、もう冒険はやり尽くした。これからは夫として父親として生きていくさ。お前のようにならないよう教え導かないとな」


「教えたってべーのような生き方なんてできないわ」


「ふふ。そうだな。真似ようと思っても真似できない生き方してるしな」


 ただ、スローなライフを送っているのに面倒事に巻き込まれるオレ。前世のオレはそんなに罪つくりな人生だったろうか?


「べー様の場合は自業自得だと思います」


 ユウコさんに乗り移ってるクセに心を読まないで!


 逃げるように四つ首の竜が倒されたところにレッツゴー。惨殺されたセンガルドさんが横たわっていました。


「……サプルや鉄拳がいなければもっと生きられたのにな……」


 これも弱肉強食。弱いヤツが食われる。罪悪感はまったくないが、四つの首をもがれ、いくつもの砲弾を浴びた痕を見ると哀れに思えて仕方がないよ。


「あんちゃん、見てた!」


「おー見てた見てた。凄かったぞ」


 心の眼で、だけどな。


「なかなか強かったぞ」


 返り血を浴びた鉄拳さん。なんて爽やかな笑顔を浮かべてんだろうな。よけいに怖いよ。


「そ、そうかい。まずは体を洗ってこい。あと、メイドに言って祝杯でもあげてろ」


 その高まった殺気を抑えなさいよ。百戦錬磨のボーイたちも気圧されているよ。


「そうだな。喉も乾いた。旨い酒でも飲んで落ち着くとしよう」


 ワッハッハと去っていく鉄拳。そのうち暴虐さんと戦わせて凹ませてやらんとならんな。


「……世の中にはまだ強いヤツがいるんだな……」


「あれはまだまだ小物だ。世の中にはもっと強いヤツはいるよ」


 オレの見立てでは人外では下のほうだ。酒飲み守護神ズ(676話)にも勝てんだろうな。


「……あれが小物か。おれにはわからない世界だよ……」


 まあ、わかる必要もねーさ。人は人の中で生きていけばイイ。人外の世界に関わることはねー。


「関わっているべー様はなんなんでしょうね?」


 人外に関わろうとも人です。人として生きているから人なんですぅ~。


 幽霊の戯れ言などアッパーカットで打ち落とし、まだ新鮮な死体へ向かった。


「あんちゃん、この竜食べれるのかな?」


「いや、これは薬の材料にするからオレがもらう。血を取ったら捌いてくれ」


 竜の血は貴重だし、サンプルとして残しておきたい。それに、先生の食料ともしたいしな。


「あ、卵が出てきたら教えてくれ」


「わかった。また人の姿をした子が産まれるのかな?」


 あ、竜は殺された相手に似た姿になったりするんだったっけな。


「必ずしもそうとは限りませんよ。知能が高い竜にその傾向は多いってだけです」


 そうなの? まあ、また転生者でした~! とかじゃなければなんでもイイさ。竜の生態にそれほど興味ねーし。


 結界でセンガルドを包み込み、血を搾り取ったら無限鞄に仕舞った。


 サプルが百花繚乱(オレが作ったナイフね)で捌いた心臓は時間停止の結界で包み込む。これは先生に解剖してもらおう。あのマッドサイエンティストはメス捌きもマッド級だからな。


「あんちゃん。脚一本もらってイイ? これ、バター醤油で焼いたら美味しいと思うんだ」


 サプルの料理感は飛び抜けている。美味しいと思うならそれば至高の逸品となる。


「おお、イイぞ。内臓は食べるか?」


「うーん。内臓はダメかな~」


 ダメか。なら、これも先生に解剖してもらうか。


 内臓が薬になると聞いたことはねーが、心臓は万病に効くんだから内臓だってなにかに効くはずだ。先生に調べてもらうとしよう。


「あ、あんちゃん! 卵が出てきたよ!」


 サプルがダチョウの卵くらいのを抱えてきた。


「産まれる気配はあるか?」


「ないっぽい。無精卵かな?」


「いや、竜は無精卵を産まないようだから有精卵のはずだ。とりあえず、オレが預かっておくよ」


 時間停止の結界を纏わせて収納鞄に入れておこう。


 粗方センガルドの死体を回収。地面に染み込んだ血は諦めよう。毒ってわけでもなさそうだしな。


「よし。じゃあ、ゼルフィング伯爵の館に向かいますか」


 馬車のところへ戻った。

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