第1595話 時代の岐路

「お前は他に任せて優雅に読書か?」


 プライレスなミスター3四郎を読んでたらあんちゃんが怒鳴りながら部屋に入ってきた。最近怒ってばっかだな。そのうち血管が切れるぞ。


 ……まあ、そうなったら強制回復させて働かせるがな……。


「今、碌でもないこと考えただろう?」


 ヤダ。無駄に勘がよくなってる! 薬を飲ませすぎた弊害かな?


「か、考えてないよー」


 ぴゅーぴゅぴー。


「下手くそか! 目が泳いでんだよ!」


 ど、動揺なんかしてないもん。ただちょっと、図星をつかれたから驚いただけさ。


「それを動揺って言うんですよ」


「それで、なんのようだよ?」


 ユウコさんに取り憑いた幽霊の突っ込みなど右から左にかっぱの笹川流れ。澄んだ心のように気にしませーん。


「会合に出やがれ」


 会合? なんのよ? と、首根っこをつかまれて城から連れ出され、地上の館にやってきた。どこよ?


「王都の名だたる商人が集まる会合だ」


「オレを連れ来てどうしようってんだ?」


 商売のことは商人たちでなんとかしらたイイじゃんか。


「仕掛人がお前で事の顛末を知ってんのがお前だけだからだよ!」


「商人がその国の法の下、できる商売したらイイんだよ。あれこれ言われて商売したい商人はいねーだろうが」


 オレはよほどの悪どい商売をしてるんじゃなければ口を出すことはねーぜ。


「お前のように急激な変化についてけるヤツはそうはいねーんだよ」


「変われねーヤツは淘汰されるだけだ。嫌なら時代の変化についていけ」


 オレは時代が変わろうと望むもんは変わらねー。取り残される? 望むところだ。


「……お前はやらせたいのかやらせたくないのかどっちだよ……?」


「やりたくなるようにしてんだよ。それでやらねーヤツは淘汰されろだ」


 やりたくねーヤツに任せるほど酔狂じゃねー。やりたいヤツにはとことん酔狂になるがな!


「ここにいるヤツがどれだけ先を見透せるかわからねーが、こっちの男は、人魚の国との商売を一手に担っている。それも三国とだ。この意味がわかるか?」


「権力があると?」


 一人の中年男が口にした。


「それもあるが、三国に卸せる商品が常に不足している。じゃあ、その品をどこから仕入れたらイイ? 人魚が好む苦い野菜はどこで作っている? 年間を通してどこが融通してくれる?」


 冬の長いハイニフィニー王国ではあるが、長いからこそ氷室的なものが生み出された。


 野菜の生産が上がれば他国に売れ、氷室にも収める量も増える。外貨が増えれば国庫も増える。増えたらやられることは増えていくってものだ。


「そして、そっちの男は東大陸の商人。知っている者はハイニフィニー王国の石炭を運んでいるのは知っているだろう? 海を渡り、河を上り、魔道船でやってくる。ハイニフィニー王国の品を、世界の品を運んで来るんだ」


 チャンターさんは輸送で儲けている。さらなる儲けを求めて飛空船も買った。なら、ハイニフィニー王国からの輸送を一手に担うのはチャンターさんだ。


「この二人の商人はハイニフィニー王国の商売を変える。暮らしを変える。時代を変えるんだ。さあ、ハイニフィニー王国の商人たちよ。ここが岐路だ。栄えるか淘汰されるか、選ぶのはお前らの才覚だ」


 これでやる気が出ねーなら時代に淘汰されるだけ。そんな商人はさっさと消えろだ。


「あんちゃんもちんたら商売してんじゃねーぞ。人魚の需要はこれからさらに増える。もしかしたら魚人からも商売の話が来るかもしらねー。一人でも多くの商人を取り込んでおかねーと、他に持っていかれんぞ」


 この男はオレが認めた一番の商人ではあるが、どうにもがっつきが足りねー。商人王におれはなる、とか言うくらいになってもらいたいよ。


「チャンターさんもだぞ。船の一隻や二隻で国を賄えるだけの量は捌けねー。少なくとも二十隻は所有できる商人になりやがれ」


「……要求がとんでもないな……」


「チャンターさんが求めるものはそれだけってことだ」


 誰もが知る商人。それは世界を相手にするってこと。二十隻でも足りねーくらいだわ。


「ハイニフィニー王国は変わる。それを胸に商売に励むとイイ」


 ガンバってください。商人諸君。

 

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