第1593話 アマリア
「お久しぶりです、アニバリ様」
なにか親父殿を見る王弟さんの目が変だと思っていたら顔見知りだったのか。
まあ、年代も同じだし、親父殿は伯爵の出なんだから城で会うこと会ったこともあるか。
「ああ。本当に久しいな。もう三十年以上になるか」
「もうそのくらいになりますかな? 懐かしい限りです」
三十年、か。確かに感慨深くなる年月だな……。
「知ってる仲ならオレは席を外すよ。まずは長い年月を縮めるとイイ」
無限鞄から酒と氷を出してテーブルに置き、部屋を出た。
「って、親父殿の従妹のなんだっけ?」
部屋に入らずにいた従妹さん。名前なんだっけ?
「アマリアよ! いい加減覚えなさいよ」
「うむ。アマ……リアな。覚えた覚えた」
「確実に三歩歩いたら忘れる言い方!」
否定はしねー。だってあんま関わりねーんだもん。
「アマリアはなんで戻って来たんだ? 親父殿は家出してきたと言ってたが」
てか、よくハイニフィニー王国からボブラ村まで来たもんだ。女一人で旅するには過酷な道のりだろうに。隊商に紛れ込んだのか?
「決別するためよ。わたしは、こんな陰気臭いところで一生を終えたくないわ」
この口振りからしてゼルフィング伯爵の影は知っていても闇は知らねーみたいだな。
子孫を残す要員かハイニフィニー王国を抑えるために貴族へ送り込まれる要員のどちらかだろうよ。
「おう。自分の人生自分で決めてこそだからな」
そう上手くいかないのが人生とは言え、決めなければ望む人生は生きられねー。強い意思を持って突き進め、だ。
「……うちがどんな家か知っているのでしょう……」
「さーな。詳しくは知らねー。だが、どんな家だろうがオレがやることに変わりはねーさ。ハイニフィニー王国にゼルフィング伯爵家は邪魔だ。ぶっ潰させてもらう」
どれだけ闇が深かろうが、影が濃かろうが、完膚なきまでぶっ潰す。これは決定だ。
「……あなたは怖いもの知らずね……」
「怖いものならたくさんあるよ」
アレとかアレとかアレとかな。恐ろしくて口に出せねーよ。
「まあ、アマリアが心配すっことはねーよ。オレに任せておけ。てか、ゼルフィング伯爵の家ってこの地下にあんのかい?」
ごっめーん。漫画読むのにそこまで調べてなかったわ~。
「もしかして、無計画?」
「オレはいつだって臨機応変に動く男なのさ」
キラーン! と白い歯を光らせる。
「家は外よ。王都の西にある山にあるわ」
サラッと流される決めゼリフ。さすがゼルフィングの館でメイドをやっていただけはあるぜ。
「別にメイドにスルースキルは必要ないと思いますけど」
たまにスルーされるのは気のせいでしょうか?
「ま、まあ、なにはともあれ旅の疲れを癒したらイイ。風呂に入りたいときは借りてる部屋から館に戻れっからよ」
「……これまでの旅を全否定してくるわよね……」
「大体なんで馬車でいこうと思ったんだよ? 飛空船を使えばすぐだったろうに」
うちには腐るほど飛空船がある。執事さんに言って用意させろよな。
「いきなり飛空船で来たら警戒されるでしょうが」
そうなの? まあ、飛空船など見たこともない田舎。驚かれるのはしょうがねーか。
「帰りはオレに言えよ。転移結界門があるんだからよ」
「ほんと、人の旅を台無しにする子よね!」
なんだ? 旅は情緒が大事とか言っちゃうタイプか? わからないではねーが、移動時間を短縮させてその土地を楽しむほうがイイとオレは思うけどね。
「なんにせよ、まずは休め。ぶっ潰すのはそれからだ」
親父殿と王弟さんとの邂逅もある。そう急ぐ必要もねーさ。
メイドさんにアマリアをお願いし、オレは釣りキチサンペーさんの続きを読みに部屋に戻った。
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