第1590話 イイ人生イイ未来

 王弟が優秀な場合、高確率で王は無能だ。


 いろいろ要因やその国の事情はあるだろうが、ハイニフィニー王国では王は傀儡。組織を維持したり守ったりするために使われていた。


 不思議だったんだよ。いくら食料不足に陥ったからって王弟がわざわざ田舎のオレを頼って来るのかって。


 カムラ王国とは交流があり、巨乳なねーちゃんとも伝手を持っていた。わざわざ交流がないアーベリアン王国の田舎に住むガキのところにってな。


「王弟さんは、変化を望んでいたのかい?」


 ぶくぶく太った王とうちの執事のような眼光鋭い男の前で王弟さんに尋ねた。


「小賢者のことを聞いたのは偶然だった。たった七歳の子供がカムラの大商人を相手にし、重要視されていると」


 この世界の伝達って光回線でできてんの? ハイニフィニー王国のような国にまでオレのことが伝わるなんてよ?


「自分の目で確かめたかったし、もし、噂される人物なら力を借りようと思った」


「なんであのとき言わなかったんだい?」


 そんな素振り、まったく見せなかったじゃん。


「いきなり助けてくれと言って助けてもらえるとは思わなかったから。まずは交流を深めてからと考えたのだ。ハイニフィニー王国は貧国。毎年のように食料調達にいっても怪しまれないからな」


 なかなかものの道理を知った男だ。突然やってきて無理難題をおしつけるヤツに聞かせてやりたいよ。


「べー様も大概突然無理難題を押しつけますけどね」


 オレはできねーヤツ、やる気のねーヤツにはやらせたりしません! まぁ、叩きつけはするけど!


「よくこんな国で生きてられるよな。いや、毒を盛られていたけどよ」


「命令するばかりで国を治められたら苦はない。人を動かし、育てることも上に立つ者の役目。ただ、都合の悪い者を排除するしか能がない者に国を汚されてたまるか」


 ほんと、カッコイイ男だよ。つい応援したくなるぜ。


「オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。この名を聞いたことがあるだろう?」


 結界で拘束した男に問うた。


「アーベリアン王国バリアル領であんたらの仕事を邪魔したの、ちゃんと伝わっているかい?」


 男は答えない。知らないのではなく、無駄な情報は渡さないってことだろう。


「ふふ。まあ、知ってようが知らなかろうが構わないか。王弟さんの背後にオレがいることをお前の主に伝えてくれや。そのうち挨拶に伺わせてもらうからよ。旨い茶でも用意しててくれ」


 拘束した男を窓から放り出してやる。


「今日で解任だ。再就職、ガンバってくれや」


 退職金はお前の主からもらってください。懲戒解雇処分みたいなものなんでな。


「王弟さん。王はご病気となりました。なので、国王代理として国を正しき方向へ導いてください。改革を邪魔する者はオレが優しく説得してやるからよ」


 血の流れない改革とやらを見せてやろう。


「……なにを返したらいいだろうか……?」


「平和な世を築いてくれたらそれでイイ。オレは平和な世でイイ人生を送りたいからな」


 スローライフは平和な世であってこそ送れるもの。邪魔するものは早々に排除させていただきます。


「イイ人生を送って、イイ未来を迎えようじゃねーか」


 お先真っ暗なんて御免だ。でなきゃ生きているのが辛いだけじゃねーか。生きるからには幸せに。そのためならオレはなんでもするさ!

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