第1589話 イイ歴史を残そうぜ

「ヘキサゴン結界!」


 で、まずはこの部屋を外から隔離した。


「おまっ! いったいなにをする気だ!?」


「なに、ハイニフィニー王国の改革をちょこっとな」


「改革にちょこっともねーわ! 大事だわ!」


 まったく、あんちゃんはビビりだな。ここに呼んだ時点で腹を括れや。


「安心しろ。平和的に、誰の血も流さずやるからよ。王弟さん。ハイニフィニー王国を富ます気はあるか? 冬でも食料に困らねー国によ? 今ならやり手の商人がついてくるぜ」


「……おれらまで巻き込むなよ……」


「諦めろ。べーがこうなのはお前が一番知っているだろうが」


「知っているから文句の一つも言いたくなるんだよ。絶対、とんでもない量の仕事を押しつけられるんだぞ」


「儲けられるんだろう?」


「それはチャンターさんの働き次第だな。だが、これだけははっきり言えるぜ。今ここで王弟さんに力を貸すなら一国の後ろ盾ができる。働きによっては名誉男爵くらいならもらえんじゃねーか?」


 オレは人魚の国から三国伯爵って位をもらっている。使いどころは選ぶが知る人ぞ知る位にはなるはずだ。


「……そう簡単に言ってくれるな……」


「歴史は権力者によって創られる。民が泣かねー歴史なら好きなように書いてけばイイんだよ」


 生きるのがやっとの時代で歴史を書きためているヤツなんていねーんだ。なら、国で残してしまえばイイ。誰も調べる術はねーんだからな。


「チャンターさんも手記として残せ。オレも日記にして書き残すからよ。創られた歴史でも数ヶ所から出た真実になる。皆でイイ歴史を残そうぜ」


「……お前を希代の詐欺師と残したいよ……」


「やりたいならやればイイさ。オレは悔いの残らねー人生を送れたらそれで充分だからな」


 イイ人生だったと言って死ぬことが今生の目標だ。未来のヤツらからなんと言われようがどうでもイイわ。


「王弟さん。どうする? あんたがやらねーなら姫さんにやらせるぞ」


「いや、わたしがやろう。ハイニフィニー王国を守るのがわたしの望みだからな」


 うん。その意気やよし。やる気がなかったら無理矢理やらせるとこだったよ。


「まず、王を確保して病になってもらう。逆らう重臣もな。役人は王弟さんの息がかかった者を順次代えていく。食料と金はオレが出すから商人をこちらの味方にしていけ」


 商人を味方にするってことは民を味方にするのと同義。うるさい権力者排除できたら民の声を大きくしてやれ、だ。


「お前、なんか慣れてないか?」


「ハルメランで一回やっているからな」


 さすがに一都市と一国家を一緒にはできねーが、やることは同じだ。どちらも人が動かしているんだからな。


「将軍。あんたが動かせる兵を集めな。軍の掌握はあんたに任せる。ボーイさん。将軍の護衛につけ。この国は厄介なのがいるから油断するなよ」


「はっ! お任せください」


 確かボーイは魔王の手下だったヤツらだ。並のヤツに負けたりはしねーだろう。


「王弟さんの嫁さんと姫さんに二人くらいつけ。まずは見た目をなんとかしてやれ」


 貧しいとは言え、上に立つ者がみすぼらしいってのも威厳がねー。ここでは裸の王さまはいらねーんだよ。


「んじゃ、王さまの確保しにいくぜ」


 王弟さん。案内よろしこ。

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