第1586話 銅森の毒

 とりあえず、結界灯を創り出して部屋を明るくした。目が悪くなるわ。


「相変わらずメチャクチャな村人だ」


「このくらい魔術師にもできる小技だろうが」


 つーか、ハイニフィニーにも魔術師はいんだから明かり取りくらいやらせろよ。王宮(王城か?)なんだから宮廷魔術師ぐらいいんだろうが。


「元気にしてたかい? 顔色はあまりすぐれねーみたいだが?」


 元々色白い美中年だったが、今は青白くなっている。


「ちょっと舌を出してみな」


 挨拶はそこそこに王弟さんに近づき、顔をつかんで舌を出させた。


「やっぱりか」


 舌が白くカサカサになっている。これは銅森の毒だ。


 無限鞄からエルクセプルを出した。


「命が惜しけりゃこれを飲め。まだ毒には試してねーが、効果はあるはずだ」


 銅森の毒を消す薬もあるが、長い時間をかけねーと体からは消えてくれねー。症状からそんな暇もねーからエルクセプルでさっさと治させてもらいます。


「殿下」


「構わぬ。べーは薬師でもある。飲めと言うなら疑わず従おう」


「封を切ったらすぐに飲めよ。それは空気に触れたときから効果は急速に減少していくから」


「わかった」


 瓶をつかみ、封を切ったらすぐに飲み干した。


「……どうだ? 効果はすぐに出るはずだ」


 腕が一瞬で生えるような即効性だ。毒だって一瞬に消し飛ぶはずだ。


「……ずっと続いていた倦怠感がなくなった……」


「うん。銅森の毒くらいなら一瞬だとは思ったが、他のワリーところも治したみてーだな」


 瞳の色がうす緑だったのに濃い緑になった。なんか持病か遺伝子異常があったかもしれんな。


「今の薬はなんなのだ?」


「エルクセプル。神の雫や命の水、竜薬などなど、伝説の万能薬だな。そのうちカムラ王国から伝わってくるはずだ。少し前に資金調達のために売ったからよ」


 カムラ王国とハイニフィニー王国は繋がりは強い。巨乳ねーちゃんを頼ったのもそれがあったからだ。


「チャンター殿から非常識なことばかり聞かされたが、もっと非常識なことをしているようだ」


 まあ、チャンターさんが持っているのは夏くらいまでか? なんかいろいろありすぎて時系列が思い切り出せねーわ。


「こんなところじゃ食い物に気を使えねーだろうが、薬師の一人でも雇いな。また毒を食わされるぞ」


「やはりわたしは毒を食わされていたのか?」


「おそらく、何年も前から少しずつ摂取してきたんだろう。銅森の毒はよく暗殺に使われるもんだからな」


 ただ、銅森の毒とわかれば消す薬を飲めば治るものだ。先生の話では自然死に見せたいときに使う毒の一つ、って言ってたからな。


「礼はどうしたらいい?」


「治験だから礼はいらねーよ。今は万能薬の効果を調べているからな。ほら、一箱やるから自分の立場を築くために使いな」


 無限鞄から六本入りの箱を出して王弟さんに渡した。


「王弟さんにだけしか開けられないようにしておいた。あ、せっかくだから収納鞄をやるよ。荷車一台分は入るから大事なものを入れておきな」


「なぜ、そこまでしてくれるのだ?」


「権力者と仲良くするなら貢ぎ物が必要だろう? ハイニフィニー王国で自由に動きたいからな」


 その国で自由にできるのはバックに権力者がいるから。そのためなら貢ぎ物の一つや二つ、なんら惜しくねーさ。ケケ。


「悪どい村人だ」


「ちょっと便宜を図ってくれと言っているだけさ」


 なにもこの国に不利益を与えたいわけじゃねー。ただ、困ったときにちょーっと助けてくれたらイイだけさ。その権力を使って、な。


「よかろう。べーと仲良くするならそのくらい必要だからな」


「理解ある王弟さんでなによりだ」


 ほんと、こういう権力者がいてくれると助かるぜ。


「それはこちらのセリフだ。理解ある村人が力となってくれるのだからな」


「お互い、幸せになれる関係がイイ関係ってな。これからも仲良くやっていこうぜ」


 六ヶ国同盟のうち三ヶ国を味方にできたらヤオヨロズ国を認めさせられるからな。ククッ。

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