第1584話 ハイニフィニー王国の秘密
「……小さいのな……」
ハイニフィニー王国の王城は、オレが見た中で一番小さなものだった。下手したら領主の城より小さいんじゃなかろうか?
「我が国は小国ですから」
「あ、いや、貶しているわけじゃねーよ。ただ、不自然だと思っただけさ」
「……不自然、なのですか……?」
「ハイニフィニー王国って建国して何年だ?」
知らない、とか言われたら民衆が暴動を起こすレベルだぞ。
「建国されて今年で五百六年です。春には五百七年になりますなね」
「建国される前はなんて国だったかわかるか?」
「あ、いえ、わかりません。白帝王様が建国したとしか……」
さすがにそこまで歴史に残さなかったか。
「約六百年前は、ここにエルフの国があったんだよ」
「……エ、エルフの国、ですか……?」
「これはエルフから聞いたから間違いない。その流れを組むエルフに聞いたからな」
そのエルフとはカーチェだよ。親父殿の仲間で今はタケルといる冒険野郎ね。あいつら、元気にやっているかね?
「あ、そういや、カーチェってハイニフィニー王国出身だったな」
正解に言うならハイニフィニー王国にある隠れ里出身で、親父殿とは小さい頃に知り合ったとか言ってたな。
「フフ。なんかいろいろと繋がってきたな」
親父殿とカーチェの繋がり、ハイニフィニー王国の歴史、冬の王フラーセルがいる理由とか、まったく、歴史ある王国はおもしれーわ。
「べ、べーくん?」
「あ、いや、ワリー。おもしれーことばっかりでいろんなとこに思考が飛んじまったわ」
この世界、ほんと謎に満ちてるわ。神が絡むと複雑になるのかね?
「それで、なぜ不自然なんですか?」
「小国とは言え、五百年と続くなら遷都の一回や二回はしてるはずだ。今の技術で百年二百年耐える建築物を建てる技術はねーからな」
「維持管理してるのでは?」
「それにだって限界がある。どこかで大改修する必要は出てくる。そもそも人が持たねー。国なんて三百年も続けられるほうが奇跡。五百年続いたとなれば裏になにかあると見たほうがしっくりくる」
陰謀論みたいなもんだが、この世界には神がいて人外がいて宇宙人がいて異世界から転生して来た者がいる。長く続いているならなにか巨大な力が関わっていると見たほうがイイ。
「遷都できない理由があるのか、遷都する必要がないのか、はたまた謎の力に守られているのか。なんにせよ、ハイニフィニー王国存続には意味があるはずだ」
意味があると言うより裏がある、が正しいかな? フフ。それがなんなのか楽しみだ。
橇は城の中に入った。
篝火が焚かれ、地下通路のようだが、おそらく城の土台は石組になっているっぽいな。上は偽装で下が本城か?
それを証明するかのように通路は下に傾いている。
「もしかして、地下都市があるのか?」
「べーくんにはお見通しなのね」
レリーナの言葉に、橇はドーム状の空間に出た。
地下だと言うのに昼間のように明るく、身なりのよい者が出歩いていた。
「ハイニフィニー王国の貴族が住む地下都市です」
「べー様これ、バイブラストやバリッサナにあったのと同じですね」
「そうだな。どうやらハイニフィニー王国にも箱庭があるっぽいな」
カーチェからここのことは聞いてねー。ってことは、エルフは住んでなかったってことか? まあ、見た限り緑はねー。エルフが住むには不向きか。
「オレが入ったりして構わねーのかい?」
「べーくんは国賓ですから」
「村人が国賓ね。なんの冗談だか」
「冗談ではありません。べーくんはハイニフィニー王国を救った方です。雑には扱えませんよ」
オレは御座の上に座らされても文句は言わねーぜ。茶は旨いもん出されねーと文句は言っちゃうけどな。
「ここからは馬車で向かいます」
貴族が使いそうな馬車が停まっており、儀仗兵っぽいのが控えていた。
「よくあんな悪臭を放ってまでアーベリアンに来たものだ」
町はそれなりに臭かったが、ここは空気も綺麗で臭くもねー。こんなところで暮らしててよくあの悪臭に堪えられたものだ。
「あのときは飢饉で酷かったですから」
それだけ追い込まれていた、ってことか。完全に任せっきりだったからわかんなかったわ。
「頼んでおいてなんだが、アーベリアン王国、よく他国に回せるだけの食料があったな?」
「例年になく豊作の年だったそうです」
それはよかった。今度ちゃんと会長さんにお礼いっとこっと。
馬車に乗り込み、中央に建つバベルの塔っぽいところに向かった。
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