第1583話 レリーナ姫

「レリーナですよ」


「あ、ああ、うんうん。レリーナレリーナ。オボエテルヨー」


「相手の目を見ながら言って見なさいよ」


 メルヘンはちょっと黙っててくださいな。今、オレの信用が危機一髪なんだからさ。


「あら、プリッシュ様ではないのですね?」


 なぜにプリッつあんは様呼ばわりされて、ハイニフィニー王国のために尽力したオレはくん呼びなん?


「信用の差でしょう」


 オレ、まるで信用されてナッシング~! まあ、構わんけど!


「わたしは、ミッシェルよ。プリッシュが忙しい間、べーの面倒を見てるのよ」


 君、オレのなにを面倒見たのよ? ただ、頭の上にいて傍観してるだけだよね? マスコットキャラだったら金返せってレベルだよ!


「ふふ。べーくんは相変わらずね。そちらの方々もそうなの?」


「あ、わたしは幽霊のレイコです。今はユウコさんの体を借りてます」


「ワシはミレイニット・マーグワイナー。べーの知り合いなら鉄拳と呼ぶがいい」


「ワイは、魔剣のヨシダや。よろしゅーな、お嬢さん」


「フフ。本当にべーくんの周りは賑やかね」


 賑やかなのは認めるが、あたかもオレが中心にいるみたいな口振りは止めてくださいませ。


「しかし、お姫様が外に出て来てイイのか?」


 小国とは言え、王弟さんの娘なんだから王族ってことだ。そう気軽に……出るお姫さまがいたな。この世界の王族、ちょっと気軽すぎね?


「護衛はつけてますから大丈夫ですよ」


 あ、いたのね。目立たないようにしてて存在感ハンパねーどこかの女騎士さんとは大違いだ。


「あれとあれとあれだな。まったく、なってない護衛だな」


「鉄拳の目を誤魔化せる護衛なんてそうはいねーよ。まあ、他にも何人かいそうだがな」


「それは、あれとあれか?」


 商人と丁稚みたいなのを指す鉄拳。まだまだだな。


「あれは囮だ。ヤベーのがあそこにいんだろう」


 一人のおばちゃんを指差した。


「あれがか? なにもおかしなところはないぞ?」


「おかしなところがねーからおかしいんだよ。あれは……ヤベーくらい手練れだ」


 オレの考えるな、感じろがヤベーと語っている。超一流どころかバケモノだ。


「ほぉう。ワシですら欺くか」


 殺気がヤヴイくらい高まる鉄拳。ここで止めろよ。大量虐殺とか洒落になんねーんだよ。


 あのおばちゃんも鉄拳の殺気を受けて、瞬間移動をしたかのように掻き消え、鉄拳も掻き消えた。


「ヤバイ国とは聞いてたが、ハイニフィニー王国、闇が深そうだ」


 ヤバイとは会長さんが言っていた。※305話


「……あ、あの、いったい……?」


 レニー……レリーナは知らないようだ。自国のヤヴイさに。


「それは父親から聞くんだな。オレもよく知らんしな」


 どうヤヴイかまでは聞いてない。関わることはないと思って流していたからな。


「あの、城に来てもらえないでしょうか? 父も会いたいそうなので」


「耳が早いな」


 まあ、遠い国のクソガキを知っているほどの情報収集力があるなら、お膝元のことなんてすぐに仕入れられるだろうよ。


「いきなり大量の食料を持ってきた商人がいる。そんなことができる者などそうはいません。ましてやハイニフィニー王国のような雪に閉ざされた地にくるなんてわたしが知る中でべーくんだけです」


「世界は広いんだ、他にもいるかもしんねーぜ」


「いたとしてもそれはべーくんの知り合いである可能性が高いです。チャンター様もそうでしたからね」


 世間知らずのお姫さまかと思ったらなかなか賢いお姫さまじゃねーか。


 ってまあ、王弟さんにくっついて外国にいくんだから女傑に入るな。


「商会長さん。王弟さんに呼ばれたから席外すわ。代金は会ったときでイイからよ」


「いや、わたしもいく。アニバリ様に報告したいからな」


 王弟さんに近いヤツなのはわかっていたが、報告するまで近い関係だったのか。王弟さんはどんな風に厄介なのかね?


「橇を用意しました」


 と、レニーラについていくと、橇を牽いたトナカイ(的なもの)がいた。


「北欧にはこんな生き物がいるんだな」


 真っ赤なお鼻のトナカイじゃないのは残念だけど。


「ミレニオと呼ばれる魔物を飼い慣らしたものです」


 魔物を飼い慣らした、ね。そういや、婦人を襲ったヤツがいたな~。確か、黒狼ってこの辺に生息してなかったっけか?※465話


「あ、べー様、鉄拳さんはどうします?」


「ほっとけ。飽きたら帰ってくんだろう」


 鉄拳なら死ぬことはねーし、オレらの気配を探って城にくんだろうよ。自由にさせておけ、だ。


 橇に乗り込み、城へ向かった。


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