第1580話 オリハルコンのバット
宿に一泊して起きたら、なんか外が賑やかだった。祭りか?
「商人っぽいですよ」
窓から外を覗くレイコさん。幽霊が出る宿になっちゃうから止めなさいよ。あ、いや、姿は見えないようにはしてるけどさ。
「もう知れ渡ったのか」
どこの国の商人も耳敏いものだ。
とは言え、オレはまだ寝起きなので顔を洗って歯を磨き、のんびりゆったりモーニングなコーヒーをいただくのが優先されるのだ。あーうめー。
「鉄拳は朝から暑苦しいなー」
早朝トレーニングがなんなのか知らんが、部屋でダンベル振り回すなよ。そういう使い方するもんじゃねーんだからよ。
「軽く準備運動しているだけだ」
一般人からしたら非常識な特訓だよ。部屋でやることじゃないんだよ。
「べーやん。起きたら刃を磨いてーや」
「昨日も磨いたじゃねーか」
「刃は毎日磨くもんや。べーやんだって毎日風呂に入るやん」
……剣は磨くことが風呂に入るかとなのか……?
「ちゃんと油塗ってや」
ちゃんとサラダ油を使ってるって教えたほうがいいかな?
まあ、丁子油は椿油。サラダ油も植物油なんだから構わんか。この世界じゃ動物油を使うこともあるんだしな。
コーヒーを飲み干したら鞘から抜いてサラダ油を塗ってやり、布で拭いてやった。
「ふと思ったんだが、砥石で研いでいくとなくなったりするのか?」
「ワイはオリハルコンや。滅多なことでは欠けたりせんで」
「オリハルコン? この世界にそんな金属あったのか?」
この世界では聖銀がオリハルコン的な金属だぞ。
「昔、金属を創り出せる転生者にオリハルコンにしてもらってんねん」
そんなアホがいたのは別として、魂を移せるものなのか? その話からして最初は別の金属だったってことだろう?
「ってことは、この世界にはオリハルコンの武器があるってことか?」
あるんならちょっと欲しいかも。てか、太陽炉で融かすのかな? 結界でイケるか?
「聖国に四十八本の剣と三十四本の槍。なぜか知らんが、オリハルコンのバットもあったで」
オリハルコンのバットだと!? なにそれ欲しい!!
「よし。春になったら聖国にいってみるか」
人至上主義なところだが、オリハルコンのバットがあるならいく価値はあるぜ。
「その前に南大陸のことや魔大陸のことが片付いてないじゃないですか」
それはそれ。これはこれ。なるようになるなるケセラセラ、だぜ!
「お客さん。起きてるかい?」
ドアがノックされ、宿の女将さん(昨日のオネーサマね)が声をかけてきた。
ユウコさんに視線を飛ばし、ドアを開けてもらった。
「おはようございます。どうかしましたか?」
ちゃんとあんちゃんの姿を纏わせてますからね。
「商人たちが食料を買いたいと集まっているんだよ。騒ぎになる前に売ってやってくれないかね」
「それは構いませんが、あれだけの数を捌くとなるとこの宿では狭すぎます。どこか大きい商店なり商会なり用意してもらえませんかね?」
この宿は小さく、部屋数も五部屋もない。部屋が余っているから副業としてやっている感じだ。
「それもそうだね。話してくるよ」
「あ、朝食もお願いしますね」
昨日は食材を提供して旨いものを作ってくれ、自前の窯があってパンも焼いてくれた。女将さん、かなりの料理上手だったのだ。朝も旨いのをお願いしまっせ。
「ああ。もうできてるからいつでも食堂にきておくれ」
そう言って部屋を出ていった。
「よし。着替えて食堂にいくか」
でもその前に汗臭い鉄拳をどこでもルームに放り込んで汗を流せさせた。
「ユウコさんも着替えな」
さすがに大正浪漫のまま寝るのは落ち着かないので、寝巻きを渡して着せていました。
「わ、わかりました」
ユウコさん用のどこでもルームに入っていった。
「べーやん。油が垂れとるで。ちゃんと均等に拭いてーな」
「注文の多い剣だよ」
能力が二倍になるのは魅力だが、毎日手入れすんのはメンドクセーな。魔王ちゃんにでも任せようかな?
「べーやん。拭くときはちゃんと集中してや」
ハイハイ。わかりましたよ。まったく、メンドクセー魔剣だぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます