第1579話 ハイニフィニー王国王都

 このままのんびりしていたら鉄拳に付き合わされそうなので、転移バッチでハイニフィニー王国へいくことにした。


 ラズリズ・デルタから降りた場所に転移する。


「バリアルはもう春の陽気なのに、ハイニフィニーは吹雪か」


「今年は特に雪が降ります」


 少し打ち解けたユウコさんがそう教えてくれた。


「ユウコさんは、あの町の生まれか?」


 そういやあの町、なんて名前だ? 


「ソノニオの町ですよ。アーベリアンからきたら最初の町です」


「そんな情報、どこで仕入れてきたのよ?」


 ずっとユウコさんの体を乗っ取って漫画読んでたよね?


「ドレミさんの分離体が仕入れてくれました」


 あ、うん。ドレミなら可能か。目立たないが、しっかり仕事をこなす超万能生命体。ありがとうございます!


「それで、どうするのだ?」


「運動のために次の町まで歩く」


「この雪でか?」


「問題ナッシング」


 結界で雪を集めて無限鞄へ放り込んでいく。


「ワイは使わへんのか?」


「これは訓練だからな。自分の力を使わんと成長しないよ」


 体を動かしながら能力を鍛える。地道な努力が成長の近道だ。


 無限鞄に入れるのも飽きたので結界パンチで雪を吹き飛ばした。


「おもしろいことするな。ワシにもやらせろ」


 オレの襟首をつかまれて後ろに追いやられてしまった。乱暴なやっちゃ。


 体力無尽蔵かってくらい鉄拳による鉄拳除雪が止まらない。修業なら何時間でも何日間でもやってしまうタイプだな。


 暗くなったら適当な場所に土のドームを創って休み、朝になったら除雪しながら道なりに進んだ。


 三日くらい進むと、道が石畳になった。大きな都市が近づいた証拠だ。


「今日は陽が出てますね」


 そうだな。雪は深いが、もう春の陽射しだな。


 半日くらい歩き、もう少しで陽が山に隠れそうな頃、城壁が見えてきた。


「王都です」


「王都? もう王都なのか?」


 途中、町どころか村もなかったぞ?


 小さい王国だとは聞いていたが、王国ってんならもっと町なり村なりあってもイイだろう。これじゃ大領地って規模だぞ。


「ハイニフィニー王国、想像してたより小さいんだな」


 王都なだけに除雪はされており、城壁に近づくと馬橇の往来があった。


「小さくとも王都なだけはあるか」


 馬橇がどこにいくか気になるところだが、もう暗くなり始めている。今日はさっさと宿を見つけることにしよう。


 城門は開きっぱなしで、門番は立ってはいない。夜も開けっぱなしなんだろうか?


「さて。宿はどこだ?」


 つーか、宿はあるのか? よくよく考えたら雪で往来できないんだから宿が成り立つとは思えねー。冬は休業するのか?


 ちょっと買い物帰りのオネーサマ。この辺に宿なんてありまっしゃろか?


「宿ならうちだよ。あんたら外からきたのかい?」


 大正浪漫と特攻服に眉もひそめないオネーサマ。雪国の女はおおらかなんだろうか?


「ああ。アーベリアン王国からきたんだよ。初めてきたから宿もわからんから難儀してたのさ」


「アーベリアンかい。アニバリ様がアーベリアンから食料を調達してくれて今年は餓死者が出なくて助かったよ」


 アニバリ? って、王弟か。食料を調達しに来たの、王弟さんだし。※301話


「それはよかったな。じゃあ、食料とか売れねーか」


 そのためにカイナーズホームで買い物してきたんだかな。


「あんた、商人なのかい? 荷物とかなさそうだけど?」


 あ、今のオレ、あんちゃんの姿を纏わせています。十一歳じゃ侮られるからな。


「魔法の鞄を持っているから身軽なのさ」


 無限鞄から収納鞄を出して、中からリンゴを出してみせた。


「塩に砂糖、油なんかも取り揃えております。お気軽にアバール商会をご利用くださいませ」


 オネーサマにニッコリ微笑んだ。


「小麦も扱ってんのかい?」


「もちろん。食料だけではなく、布や薬も扱っていますよ」


 あんちゃんのところは主に人魚相手の商売だが、基本はよろず屋。お客様のご要望に答えてお売りしますってところだ。


「まあ、とりあえず商売はあとにして宿で休ませてもらえると助かります。この雪の中を歩いてきたものでね」


 オレはまだ余裕だが、ユウコさんはヘトヘト。休ませてやらんと体を壊しそうだ。


「あ、ああ。そうだね。こっちだよ」


 オネーサマのあとに続き、宿へ向かった。


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