第1578話 バケモノ

「べー。飽きたわ」


 アストロな球団を読んでいたらみっちょんが頭にパ○ルダーオン。君、三國志のアニメ三周目してなかったっけ?


「まあ、さすがに五日は閉じ籠りすぎたな」


 ついストーリーがおもしろくて外に出ることもしなかった。これは不健康すぎるな。


「レイコさん、それで終われよ」


「えー。まだ読み足りないです~!」


「少しはユウコさんを休ませてやれよ。なんか太ってるぞ」


 意識はレイコに乗っ取られているが、肉体はユウコさんのもの。食っちゃ寝しているようなものだ。あの痩せ細った体が今やふくよかになってんぞ。


「人は簡単に太るのだな」


 あなたはどんなに食っても太らないだろね。漫画読んでいるときも眠っているときも筋トレしてるしね。つーか、逆立ちしながらよく眠れるよね?


「ユウコさんは喜んでますよ」


 太るのがか? まあ、肥えるほど食えるんだから幸せか。オレも食えないときは辛かったしな。


「とは言え、ぶくぶく太るのは体にワリーしな。少し運動するか」


「お、付き合うぞ」


 手加減できねーヤツとなんてゴメンだが、負荷をかけてもらうたらそう長いこと熱血に付き合わされることもねーだろう。


 あらよっとな感じで結界で拘束させてもらった。


「お、これはいいな! 筋肉が喜んでおる!」


 オレにはよくわからない感覚であり表現である。


 コンテナハウスから出ると、準備体操をする鉄拳。オーガでも動けない強度なんだけど。


「もっと強くしてくれ。筋肉が負荷を求めておる」


 もうただのマゾだよ。オレはサドじゃねーんだよ。でも、余裕を残しておくと厄介そうなので負荷を強めた。


「うむ。これはいい。筋肉が悲鳴を上げている」


 なにが嬉しいのかまったくわかんねー。竜ですら拘束できる強度にしてんのに。


「じゃあ、いくぞ」


「うむ。来い」


 殺戮阿吽を出し、ゆっくりと振るって打ち込んだ──ら、あっさりと受け止めやかった。筋肉痛を起こしているときの動きなのに。一瞬だけ滑らかに動いたぞ?


「ふふ。いい衝撃だ。加減してなければ流し切れなかったぞ」


「今のをイイ衝撃とか言える鉄拳が怖いよ」


 岩なら簡単に砕ける衝撃だ。それをどう流せるってんだよ? 意味わかんねーわ。


「フフ。鍛練の賜物だ」


 オレには一生理解できない次元にいっちゃってるな。


「もう少し強くしてよいぞ」


 って言うので阿で強く打つが、やはりパシッと受け止めた。ならと、吽で打つもパシッと受け止められてしまった。


「こちらからもいくぞ」


 動きは鈍いのになぜか鋭く、突きを紙一重で避けられた。


「やはりお主は勘がよい。今のを避けたか」


「……い、今の、確実に殺す一撃だったよな……」


 オレの考えるな、感じろが働いたぞ。


「当たり前だ。お主は本気でないと勘が働かないタイプだろう」


 タイプとか知識を身につけるのも早い男だよ。


「ワシも勘は鋭いほうだ。考える前に体が動くぞ」


 それはオレもだと、鉄拳が動く前に跳び退いた。そうしなかったら首に突き刺さってるイメージが浮かんだぞ。


「よい。よいぞ。やはりお主とやり合うのは楽しいの」


 オレは酷く後悔してるよ。鉄拳を全然理解してなかったぜ……。


 止めてくださいと言っても止めてくれなさそうなので、本気で打ち込んだ──が、オレの動きなど見切ったとばかりにすべてを受け止める鉄拳。勘と言うよりセンスが磨きがかってる感じだ。


 吽を投げ捨て、阿を両手につかんでフルスイング。だが、両手で受け止められてしまった。


「フフ。さすがに痺れたぞ」


「オレは恐怖におののいているがな」


 確実に竜を吹き飛ばすほどの威力だぞ。なんで受け止められるか本当に意味不明だわ。


 結界で吽を取りよせ、次はスピードで連打してやる。


 もちろん、すべてを受け止められるが、拘束により肉体への負担は蓄積される。それを見込んでラッシュをかけた。


 なんてオレの行動を読んでか、阿吽をつかんだと思ったらひっくり返されていた。


 考えるより早く目の前にヘキサゴン結界三枚並べ──をしたら、三枚を砕かれてしまった。


「……バケモノめ……」


「それはこちらのセリフだ。勘はお主のほうが勝っているようだ」


 でなければオレの顔は吹き飛んでいたことだろうよ。


「さすがに限界だな」


 殺気を帯びた目が消え、戦闘態勢を解いた。


「また一つ、強くなった感じがする」


 オレは一年、寿命が縮んだ思いだよ。


 地面にへたり込み、これまでにないくらい息切れを起こしてしまった。


 二度と鉄拳とやり合わんからな!

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