第1577話 漫画喫茶

 コンテナハウスはそのままなので、そこに泊まることにした。


 一応、支店長さんに挨拶はしてからコンテナハウスへ入り、ユウコさんに風呂に入ってもらった。


 風呂の使い方はドレミの分離体に任せ、飛空船場へ向かった。


 飛空船場にはラズリズ・デルタと小人族の飛空船が一隻停泊していた。


 まだ原っぱでしかない飛空船場は凹凸が激しいので、車輪のある乗り物は使われておらず、コーレンが飛びかっていた。


「小人族の技術力はとんでもねーな」


 まあ、技術はあっても幸せに生きられないイイ見本だな。


「べー様!」


 コーレンに乗って小人がやって来た。


「忙しいのか?」


「はい! ラズリズ・デルタが不調でして、今オーバーホールしているところです!」


「オーバーホールって大事だな。じゃあ、しばらく動けんってことか?」


「はい! 艦長が申し訳ありませんと申してました!」


「構わんよ。そう急ぎでもないしに。こちらはこちらでなんとかするから慌てずやってくれと伝えてくれや。安全第一にな」


 何事も順調とはいかねーもの。こんなときもあるさ。


 忙しいだろうからそのままコンテナハウスへ戻った。


「お、上がってたか。腹が空いてんなら食堂で食ってくるとイイぞ」


 確か食堂は二十四時間体制でやっているはず。まだ午後の三時だからそれなりのもんを出してくれんだろうよ。


「い、いえ、まだお腹は膨れているので大丈夫です」


「少食なんだな」


「べー様、まだ昼食を食べてからそんなに時間が経ってないんですから食べられませんよ」


 あーまあ、そうだった。オレはそんなに食わなかったから忘れてたよ。確かに二時間も過ぎてねーか。


「鉄拳はなにしてんだ?」


「空手バカ一代を読んでおる」


「……おもしろいのか……?」


「うむ。よくわからぬ国の話なのでわからないことも多いが、空手に懸ける男の熱さはよくわかる。ワシもこんな相手と戦いたいものだ」


 この世界の精霊は、昭和の魂でも持っているのだろうか? 理解力高くね?


「あ、そうだ! 三國志ですよ! ユウコさん。体貸してくださいね──」


 借りる契約を交わしたとは言え、飛び込むのは止めなさいよ。ユウコさん、びっくりしてあの世にいっちゃうよ。


「ドレミさん、三國志を出してもらえますか?」


「畏まりました」


 猫型から幼女型メイドにトランスフォームすると、三國志全巻を出した。


「下に置かないで本棚に並べろよ」


 オレ、床に本を置くの許せないタイプなんだよね。


「では、本棚を用意します」


 九百八十円で売ってそうな本棚を出し、三國志を本棚に並べた。


「ドレミ。王家の紋章も出してよ」


 なんかコアな漫画を要求してんな、このメルヘンは。てか、このシリーズ、まだ終わってねーのか? 


「ドレミ。ドカベンとかあるか?」


 年代ではねーが、高校生のとき読んでいたっけ。また読みたくなったよ。あ、野球狂の詩も好きだったな~。水島先生マジリスペクト。


「なんか漫画喫茶みたくなってきたな」


 野球漫画を出してもらっていたらコンテナハウスの片側が本棚で埋まってしまった。


「べー。なにか飲むものをくれ」


「酒か?」


「それもよいが、今はお茶でよい。香りのよいものをくれ」


「あ、わたしはソフトクリームが食べたい」


「ユウコさんはお菓子が食べたいそうです」


 オレは漫画喫茶のマスターじゃねーよ!


「ドレミ、頼めるか?」


 こういうときミタさんのありがたさを感じるよな。まあ、ドレミも同じことしてくれるからありがたいけどよ。


「お任せください」 


 と言うのでお任せです。


 分離体も現れてお茶やソフトクリーム、お菓子などを用意してくれた。


 益々漫画喫茶っぽくなってきたな。まあ、嫌いじゃないけどよ。


「ブルー島にもこんなの欲しいな」


 いないことが多いだろう。とか言っちゃイヤン。たまに利用できたらオールオッケーなのさ。


「読んでると野球がやりたくなるぜよ」


「うむ。ワシもこんな熱い男と死合ってみたいものだ」


 やるときは別な場所で、オレじゃないヤツとやってね。


「べーやん。読み終わったらカメアリを読んでや。ワイ、あれ好きやってんねん」


「ったく。肉体がねーってメンドクセーな。ドレミ。分離体を貸してくれ。ヨシダに読ませてやってくれ」


 腰に差したヨシダを抜いて分離体に渡した。


 さて。これからオールで読んでいくぜ!

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