第1576話 色物

 フードコートで腹を満たしたらハイニフィニー王国へ戻った。


「どっちも真冬の服じゃねーよな」


 特攻服と袴姿。ほんと、統一感がねーな!


「人目があるから幻を纏わせておくからな」


「べー様、人目なんて気にしないじゃないですか」


「城塞が壊れてんだぞ。そんなところに変な服を着ているヤツがいたら目をつけられんだろうが」


 なにもないなら人目など気にもならねーが、大騒ぎしている中で目立つなんて厄介でしかねーだろうが。


 町は雪に埋もれながらも城塞が謎の崩壊で騒ぎになっており、兵士らしき男たちが走り回っている。


「こりゃ、町を出たほうがイイな」


 親父殿たちが来るまでゆっくりしたかったが、この騒ぎじゃ無理だろう。なら、次の町に移るとしよう。


 孤児院へ向かい、出発することをシスターに伝えた。


「これはお世話になった謝礼です。親のいない子どもたちのためにお役立てください」


 銀貨を詰めた革袋を渡した。


「ありがとうございます」


「またここによることがあったら挨拶によらせていただきます」


 そう言って孤児院をあとにした。


「長いことこの町におったのに、なんも見て回れんかったな~」


「剣のどこで見るんだよ?」


 いや、剣に目がついてるのも不気味だけどよ。


「心の目や」


 なんのとんちだよ? そう言うのは一休さんとやってろ。


「つーか、人化とかできんのか?」


「そんな機能はあらへんよ。ずっと剣のままや。まあ、こうして持ち歩いてもらてありがたい限りや」


 抜き身の剣をもちあるくのもなんなので、カイナーズでテキトーな鞘を買い、プリッつあんの能力でヨシダに合わせた。


「村人が剣を差すとかしっくりこねーな」


 剣は何百本と作ってきたが、腰に差したことは一度もねー。オレには剣の才能がなかったからな。


「エリナにバットにしてもらうか?」


「ワイのアイデンティティーを奪わんでや」


「剣になったの認めてんだ?」


「剣なったことで守れた命がある。ワイは剣であることを誇りに思ってるんや」


 ヨシダの握り手と信頼し合える時間を送ってきたんだな。会ってみたかったよ。


「ドレミ。ラズリズ・デルタと連絡取れるか?」


「はい。ミニピンクを待機させております」


 そのうち世界はドレミネットワークが張り巡らされそうだな。


「合流したいんだが、とこら辺を飛んでる?」


「バリアルの街に降りています」


「じゃあ、一旦バリアルの街にいったほうが早いな」


 ってことでバリアルの街にレッツ転移。ゼルフィング商会の支店の前にジャジャジャーン。


「こっちは冬の終わりかけだな」


 バリアル領は内陸部だが、ボブラ村より雪は降らない。暖かい風が吹いてくるみたいで、春の陽気になることもあるらしいよ。


「ベー様。体が重いんですけど、これ、なんでしょう?」


 しゃがんでしまうレイコさん。そりゃ疲労だわ。


「体から出ろ。ユウコさんはまだ体力が本調子じゃねーんだからよ」


 まだ栄養がいき渡ってねーから体は細い。体重も四十キロありはかないかくらいだろうよ。


「……残念です……」


 ユウコさんの体からレイコさんがすぅ~と出てきた。あっさりしたもんだな。


「ユウコさん、大丈夫かい?」


 レイコさんが抜けたからか、なんか気配が変わった。


「……は、はい。大丈夫です……」


 消え去りそうな声だな。生きてんだから幽霊より元気にしろよ。一日五食にすんぞ。


「まあ、色物ばかりだしな。萎縮するのも無理ねーか」


「自分が一番のイロモンやないか」


「突っ込みは幽霊とメルヘンで間に合ってんだよ! ボケに回れや!」


 いや、ボケられても困るがな! 剣なんかに突っ込みたくねーわ!


「とりあえず、今日は休むぞ」


 親父殿たちはまだハイニフィニー王国に入ってねーはず。三日くらいユウコさんを休ましてからまたいってみるとしよう。

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