第1575話 鉄拳制裁&大正浪漫

 買い物を済ませ、フードコートでタピオカミルクティーを飲んでいたら特攻服を着たヤンキーがやって来た。


 なんでヤンキー? とは思ったが、フードコートにはコスプレイヤーもいる。その同類だろと流していたら、そのヤンキーはオレのところに来た。え?


「待たせたな。いい服ばかりで選ぶのに苦労したぞ」


 そのヤンキーは鉄拳だった。


「……なぜに特攻服……?」


「カッコいいからだ!」


 ぐうの音も出ない理由に言葉が出て来ない。


「背中に刺繍もしてもらったぞ」


 くるんと振り返ると、背中には「鉄拳制裁」と刺繍されていた。


「天下無敵とか一騎当千とか、もっとイイのがあっただろう」


 なぜに鉄拳制裁? もっとカッコイイ四文字熟語はあっただろうが。


「コンなんとかが拳で悪を裁く意味だと言っていたぞ」


 うん。そのコンシェルジュ、ちょっとオレのところに来いや。正しい意味を拳で教えてやるからよ。


「ま、まあ、鉄拳が気に入ってんなら構わんけどよ。なんか食うかい? あそこで食いたいものを言えばなんでも出してくれるぞ」


 ここのフードコートならシシカバブーでも出してくれるぞ。あ、バーベキュー族の王子ではないからね。


「うむ。では、甘いものがいいな。果物はあるか?」


「ここは季節に関係なくいろんな果物があるからあそこで甘い果物をお任せで頼むと言ってみるとイイよ」


「わかった」


 カウンターに向かう鉄拳制裁。ほんと、間違った情報を広めんなよ。特攻服が根づいたらどうすんだよ。また転生者の評判が落ちるじゃねーか。


「ベーが一番評判を落としていると思うけど」


「メルヘンはパンに挟まれておしまい」


 無限鞄からパンケーキを出して挟めてやった。


「ベー様、お待たせしました」


 フォークで突いてくるメルヘンと戦っていたらレイコさんがやってきた。


「なんでハイカラさん?」


 ここのコンシェルジュ、なにに毒されてんの? それともセンスが狂ってんの? 世界観を大切にしろよ。目立ってしゃーねーだろうが。


 なに? 特攻服を着たヤンキーと大正浪漫のハイカラさんを連れて歩けってーの? なんて罰ゲーム?


「今さらでしょう。妖精にメイド、黒猫を連れて歩いてたんだから」


 ハーイ、そーでしたー! クソ! そんな色物に囲まれていたよ!


「一番目立ってるのはベーと言う不思議。まあ、不思議でもないんだけどさ」


 蜂蜜もかけてアリザの前に置いてやる。百回咀嚼されて脱皮の糧となるがよい!


「もらってきたぞ!」


 大皿にフルーツカット盛り合わせを盆に乗せて戻ってきた鉄拳制裁。なんかやらたら旨そうだな。


「そんなに食えんのか?」


「今は霊力が激減しておるからな、このくらい問題はない」


 精霊でも肉体があると摂取しないとならないのか。リアルメルヘンは夢もねー。


 ぐぅ~。と、レイコさんの腹が鳴った。いや、ユウコさんの腹の虫か。


「なんか頼んできな」


「はい。わたし、うどんってのを食べてみたかったんです」


 うどんを食べたがる幽霊。てか、ちゃんと味が伝わるのか? あ、痛さも伝わってたから味覚も伝わる、のか?


 ワカメうどんを盆に乗せて戻ってきた。


「体の持ち主はうどんでイイのか?」


 まだ胃が弱いだろうから消化のイイうどんが最適だろうけどさ。


「ユウコさんは、お腹いっぱい食べれられたら満足みたいですよ」


 それだけで食えてこれなかった苦労が見えてくるな。


「腹を壊さないていどに食うとイイさ」


 タケルやアリザみたいに食ったりはしないだろうしな。そういや、アリザ、最近見てねーな。どこかで食い尽くしてなけりゃイイがよ。


「美味しいです!」


 やはり味覚もレイコさんに伝わるんだ。どんな理屈なんだろう?


「ユウコさんも美味しいって涙流してます」


「それはなにより。食後にクリームソーダを飲ませてやるよ」


 美味しそうに食うのを見ていると、さらに食べさせたくなるジジババの気持ちがよくわかる十一歳。女に産まれてたらロリバハアと呼ばれていたのだろうか?


 まあ、男に産まれてなによりと、感謝しておこう。

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