第1573話 暴力系幽霊

「あ、目覚めそうです」


 変態に?


「違いますよ!」


 と、殴られてしまった。


 この幽霊、殴りクセがあるなとは思ってたが、肉体を持って確信した。レイコさんは暴力系幽霊だ。


「誰が暴力系ですか! べー様が失礼なこと言うからですよ!」


 オレは今、理不尽にビンタされてんだけど。そこんところどうなのよ?


「手が痛いです」


 うん。オレは理不尽な暴力を受けて心が痛いがな!


「あ、目覚めました」


 だからなにがよ?


「この体の持ち主さんですよ」


 その表現は正しいのか? まあ、メンドクセーから軽く流すけど。


「なんか言ってるか?」


「戸惑ってますね」


 そりゃ幽霊に体を乗っ取られてたら戸惑いの一つや二つするわな。オレも誰かに乗っ取られていたら素直にビビるわ。


「ちょっと話し合ってみますね」


 こてんと上半身に力がなくなってベッドに倒れてしまった。


「幽霊に乗っ取られるとかどんな感じなんだろうな?」


「お主はなんと言うか、ズレておるな」


「あんさん、幽霊に取り憑かれていたやん。乗っ取られたのと同じやん」


「幽霊に取り憑かれる前にメルヘンに取り憑かれてたからな。そう違和感はなかったよ」


「プリッシュにまた蹴られるわよ」


 今は近くにいないので気にしませーん。


「まあ、話し合いが終わるまでなんか食うか。鉄拳は捕まっている間、なに食ってたんだ?」


「わしは水や魔素からでも栄養を摂れる。だが、久しぶりに酒は飲みたいのぉ」


 鉄拳も酒飲みかい。酒になんか人外に必要なもんでも含まれてんのか?


「酒ならなんでもイイのかい?」


 とりあえずテーブルを出してワインや日本酒、ウイスキーやウォッカなどを出した。てか、カイナが出した酒、一向に減らんな。増殖してんのか?


「旨い酒ならなんでもよい」


 日本酒に手を伸ばし、キャップを外していっき飲み。それ、一升瓶だよ……。


「酒飲みの胃はどうなってんだか」


「変換力が高いだけだ」


「変換力?」


「ハイエルフや精霊は力を霊力に変換する能力に優れておる。まあ、個人差はあるが、長けているものは無限かと思うほど飲めたり食えたりするのだ」


 プリッつあんもあの体でタケル並みに食えたりしてた。その理由が変換力と言うわけか。なるほどね~。


「うむ。旨い酒だ。なにか神々しい魔力を感じるぞ」


「その酒は、魔神に匹敵するヤツが魔力と交換に創り出したもんだよ。飲みたきゃ好きなだけ飲みな」


「そんなものまでおるのか。上には上がおるものだな……」


「斜め上にも斜め上なヤツがいるがな」


「自分のこと?」


 エリナたちのことだよ! なんでオレが斜め上のヤツなんだよ!


「なかなかいい角度にぶっ飛んでると思うけど」


「アハハ。みっちょんはなかなか辛辣やな」


「この世界のメルヘンは大概辛辣だよ」


 メルヘンに夢など持っちゃいないが、たまに切望したくなる。メルヘンはきっと優しい存在なんだってな!


「──話し合いが終わりました」


 ムクッと起き上がった。ポルターガイストみたいな動きすんじゃないよ。怖いわ!


「テレビから出てくるヤツみたいやな」


 それはサダコさん。ポルターガイストはキャロルなアンちゃんだよ。


「それで、どうなったんだ?」


「衣食住を面倒見てくれるなら体を貸してくれるそうです。ゼルフィング家で雇ってください。わたしじゃ知識しか与えられませんし」


「衣食住だけで幽霊に体を貸すとかスゲーな」


 どんな悪環境で生きてたんだよ? 


「この酷い状況から逃れるならなんでもするみたいですよ」


 意外と芯が強いヤツのようだ。


「まあ、雇うのは構わねーよ。衣食住に給金は一日銀貨一枚。年に二回の賞与。休みはレイコさんと要相談、でどうだ?」


 幽霊に体を貸すんだから厚待遇にしてやらんとな。


「それで構わないそうです」


 すぐに返事をしたってことは、このやり取りが見えているってことか。


「じゃあ、まずは服か。ドレミ。服を頼めるか?」


 一応、衣服型の結界を纏わせているが、ちゃんとした服を与えておこう。衣食住を面倒見るって約束したんだからな。


「畏まりました」


 猫型から幼女型メイドにトランスフォーム。あとは任せて部屋から出た。

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