第1572話 シンクロ率

 強制的に解かされたマジカルチェンジを再度展開。旅人に見える結界を纏いました~。


「器用だな」


「世の中、力押しだけじゃどうにもならんことはあるからな」


「……耳が痛い話だ……」


「まあ、ときには力で押し通る必要がある。自分にできねーときは他にやらせたらイイさ」


 なんでも一人で、なんて不可能なんだ。できねーことはできねーと諦めて他に任せるのも手だ。


「とにかく孤児院に戻らんとな」


 もう少しで朝になる。てか、すっかり徹夜になっちゃったよ。意識したら眠くなってきたぜ。


 栄養剤を飲んでおきたいところだが、あれは非常時に飲むもの。まだ大丈夫だ。


「他には問答無用で飲ませるのに」


 他のヤツだから問答無用で飲ませるんじゃねーか。そこに躊躇いはねー。


 結界で雪を集め、無限鞄に放り込みながら町を目指した。


「騒がしいですね」


 うん。鉄拳さんが怒りのままに暴れちゃったしね。しょうがないよ。


「巻き込まれる前に孤児院に向うとしよう」


「巻き込まれたのは町のほうですけどね」


 そんな些細なこと気にちゃイヤン。おおらかにいきまっはしょい!


 孤児院が目覚める前に到着。横になった場所に来たらシスターが現れた。おはようございます。


「そちらの方は?」


 あ、鉄拳さんいたっけ。気配もなく視界から外れていたから存在を忘れてたよ!


「はぐれていた仲間です。わたしたち兄妹を探し出してくれました」


「そうですか。それはなによりです」


「妹は目覚めたでしょうか?」


 追及される前に話題を変える。


「いえ、まだ眠っています。よほど疲れているのでしょう」


 シスターたちは起きたと言うので霊視眼の女のところへ通してまたもらった。


 寝息は正常だが、栄養が足りてないようで顔色が悪い。やはりちゃんと食べさせないといかんな。


 レイコさん。今のうちに乗り移れないか?


「そうですね。意識がないうちに乗り移ったほうが簡単かもしれませんね」


 てか、乗り移ったことあんの?


「昔に何回かありますが、あまりよくなかったのですぐ弾かれちゃいました」


 シンクロ率がよくないとダメってことか? 


「まあ、やってみます」


 オレの背後から前に出て、寝ている女の体に足から入っていった。いや、入り方!


 女の中へ入ってしばし。もぞもぞってしたら瞼が開いた。


 キョロキョロと左右を見て、腕を動かして手を眺める。


「……動いてます……」


 声はレイコさんじゃなかった。この女の声か?


「ああ、動いているな。違和感は?」


「ありません。思うとおりに動きます」


 シンクロ率百パーセントか。百二十パーセントになったら暴走とかしないよね?


 上半身をゆっくり起こし、また腕を動かして手を握ったり開いたりしている。


「シスター。水をもらえますか?」


 ちょっと席を外しておくんなまし。


「はい。すぐに持ってきます」


 シスターが下がったら額に手を当てて熱を計ったり、瞳孔を見たり、心拍を視たりした。


「オレが触れたことはレイコさんに伝わっているのか?」


「はい。久しぶりの人の熱です」


 熱、ね。そんな記憶、まだ持ってたんだな。


「体はどうだ? ダルいか? 熱いか?」


「う、うーん? 重い、ですかね?」


 まあ、幽霊に体重はねーし、重力に逆らって浮いてるしな。


「女の意識はどこにいってるんだ?」


「眠っている感じですかね? まだよくわかりません」


 他にも訊きたいが、シスターが戻ってきたのでレイコさんに水を飲んでもらった。


「……美味しいです……」


 と、涙を流すレイコさん。味に感動でもしたのか? 


「美味しいと感じるなら体が回復している証拠だな。じゃあ、これを飲め」


 スポーツ飲料水を出して少しずつ飲ませた。


「体に染み渡るのがわかります」


「いっきに全部は飲むな。少しずつだ。胃がびっくりするから」


 胃痙攣を起こしたら大変だしな。


 半分くらい飲んだら乗り移った女の手を取り、感覚を馴染ませていく。


「不思議な感じです」


「感じているなら神経も繋が──回復している証拠だ。痛くはないか?」


「大丈夫です。感覚が目覚めていく感じです」


 これはシンクロと言うより微調整されてる感じか?


 レイコさんが女の体に馴染むよう腕や脚を揉んでやった。

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