第1571話 メルヘンダーと鉄拳

「……理不尽すぎる……」


 放り出されたのは吹雪の中。たぶん、町の外だろう。せめて孤児院の前にしろよな……。


「べー。寒いよ。早く結界張ってよ」


 本体に関係なく離脱できるメルヘンダーも理不尽でござる。


 とは言え、結界を消された今のオレも寒さで死にそうである。あらよっとで結界を張った。


「神聖魔法の使い手だったとはな。道理で強いわけだ」


 あ、一緒に美青年ハイエルフも飛ばされたんだっけな。


「オレなんてまだまだだよ。あの腐れどもに連れ去られるんだからな」


 現実逃避していたのが悪かった。今度からは正面から抵抗してやるからな。


「あいつらはなんなのだ? わしをいいようにコケにしてくれたものだ」


「自分の身が可愛いならあいつらとはかかわるな。碌なことにならんから」


 オレも情にほだされてかかわってしまったが、今は後悔しかないよ。あいつとかかわってからオレのスローライフは波乱に満ちてるよ。


「ご主人様とかかわってるときも波乱でしたよね?」


 そ、そうだったかな~? 今ほどじゃなかったような気がするな~? 


「しかし、羽妖精を連れていたり幽霊を憑かせていたりとおかしなヤツだな」


「あんた、レイコさんが見えんのかい?」


「それだけ霊力が強ければ嫌でも見える」


 ハイエルフの目、スゲーな。神世の存在なだけあるわ。


「今さらですが、べー様に憑いているレイコです。よろしくお願いします」


「わたしは、ミッシェルよ。気まぐれでべーと一緒にいるわ」


 なんだろう。改めてそう言われると、大した理由でもないのに幽霊に取り憑かれ、メルヘンダーに頭にオンされているんだな、オレ……。


「わしはミレイニット・マーグワイナー。親しき者からは鉄拳と呼ばれておる。お主らには特別そう呼ばせてやろう」


 鉄拳か。覚えやすくてイイな。ハイエルフとしてはどうかと思う二つ名だけど!


「オレはべーと呼んでくれ。ほぼ正式名では呼ばれんからな」


「うむ。では、べーと呼ぼう」


 見た目は涼しげな美青年なのに、その性格は汗臭そうだ。


「そんで、鉄拳はこれからどうするんだ? オレはまだあの町に用があるが」


「しばらくべーに付き合おう。長いこと閉じ込められておったからな、なにも知らずにまた捕まるのも困る」


「てか、鉄拳を閉じ込められるヤツってなに者よ?」


 上には上がいるとは言うが、これだけの実力者を閉じ込めるなんて至難だぞ。オレの結界でも数分で破られそうな力だぞ。


「バケモノだ。おそらく管理者の一人だろう」


 管理者、ね。


 居候さんの話しぶりではアーベリアンにいる人外の誰かだろうよ。


「そのバケモノに再挑戦すんのかい?」


「いや、わしの力では勝てんだろう。さらなる鍛練をしてから再戦だ」


 ほんと、ハイエルフとは思えん思考してるよ。


「なら、人に教えてみるってのはどうだい?」


「教える、だと?」


「ああ。教えることで見えてくるものもある。あんたを閉じ込めたバケモノを思い出してみろ。あんたを手玉に取ったんじゃないか? まるで子どもを相手するかのように」


「…………」


 思い当たる節があるんだろう。考えに入ってしまった。


「一人で強くなるには限界がある。弱い者に教え導くことによって自分の見えない部分がわかってくるものだぜ」


「べーは長命種かなにかなのか? まるでジジイのようだ」


「オレは転生者だ。別の世界で死に、この世界に生まれた。あんたより長くは生きてねーが、死は経験し、生の意味を知った。そんなオレが教えてやることは一つ。人は人とかかわってこそ強くなる。あんたが伸びねーのはそのせいだ」


 ハイエルフなせいで人とかかわってこなかったんだろうよ。長命種の欠点だ。


「まあ、すぐに答えを出す必要はねーさ。オレはいろいろやることがあるんでな。ゆっくり考えな」


 ほんと、いろいろあってなにから手にしたらイイかわからんよ。ハァー。

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