第1570話 暴れん坊
「あの少年、なんか死にそうやないか?」
そりゃ、あんなバケモノどもに囲まれ、弄ばれるとか憤死もの。オレなら百回死ねるぞ。今のオレも一回目の死が迫っているような状況だけどな!
ほんと、なんでオレは連れられて来たのよ? オレ、関係ないよね? そっちで好きなだけ愛でろよな。
「てか、美少年形態止めたらいいんとちゃうか?」
そんなヨシダの声が聞こえたのか、美少年ハイエルフの目に正気が宿った。
……さすがハイエルフ。精神はまだ死んでないようだ……。
「──離れろ!」
腐嬢どもを振り払うと、また光った。
光は一瞬で、次の瞬間には二十歳くらいの美青年になっていた。
「うぅ、拙者らの美少年が……」
「帰って来て、マイスイートボーイ」
「ケッ。ゴミが!」
白いエルフは清々しいくらいクズである。と言うか犯罪である。神よ。どうかこの世界に射殺許可を与えたポリスメンを召喚してくださいませ。
「下がれ! わしに近づくな!」
わし? ってまあ、ハイエルフなら千年以上生きると言われている。ここにいる者らよりは年上だろうよ。
「お慈悲を。もう一度、拙者らに美少年を」
「もっとクンカクンカしたいですわ」
うん。骸骨に嗅覚ないっしょ。つーか、骸骨にクンカクンカされたらトラウマもんだわ。
「つまらん。フン!」
やけ酒に入る白いエルフ。もうちょっと自制を身につけなさいよ、あなたは。
「……お主ら、死にたいようだな……」
ついさっきまで死にそうだったのはお前だがな。
「止めておきなさい。あなたでは返り討ちにされるのがオチよ」
と、どこからか居候さんが現れた。
……あ、あなたも腐ってたの……?
「そこ。ゴミを見るような目をしないの。わたしはもうそんな欲はないわよ」
いや、お菓子欲はあるじゃん。その手にアイス持ってんじゃん。
「しょ、少々の欲がないと生き物としての域にいられないのよ」
うん。言い訳が人らしくて乙ですわ~。
「で、なんか盟約だか契約でアーベリアンから出れないんじゃなかったっけか?」
そんな設定あったよね?
「ここは、どの国にも属さない、ある種、神世の空間よ。人は介在できないわ」
あ、あの、ここに混じりっ気なしの人がいるのですが?
「べー様が一番人から遠いところにいると思います」
人なのに人じゃないヤツらから人扱いされないオレ。これはなんて理不尽でしょうか?
「理不尽ではなく自業自得って言うんじゃない?」
言葉達者なメルヘンがうるさいです。ちょっとお口にチャックしててください。
「確かあなた、ミレイニットと言ったわね。ライゼールの暴れん坊さん」
暴れん坊? まあ、確かに暴れん坊だったけど、ハイエルフのイメージがどんどん崩れていくな。
「……ジジイどもから聞いたことがある。この世界には管理者なるバケモノがいると……」
「管理はしてないわ。ただ、秩序を崩さないようにしているだけよ。ちなみにそのバケモノはもういないわ」
と、オレを見ながら言う居候さん。
だが、オレになんの感情も湧いてくることはねー。もう乗り越えたこと。今のオレは今生をおもしろおかしく生きてんだからな。
「わしをどうしようと言うのだ?」
「どうもしないわ。ただ、静かに生きてくれると助かるわ」
「わしはわしの生きたいように生きるまでだ」
居候さんに睨まれても我が道を譲らねーとかスゲーヤツだ。
「べー様も我が道を譲ったことないじゃないですか」
オレはオレが思うままに生きてるだけだ。
「似た者同士ですか」
オレは力ずくではなく、ちゃんと退いてもらうよう説得するわ。
「村人さん。この暴れん坊を説得してくれないかしら? わたしでは手に負えないわ」
なに、その放り投げ? オレ、関係ないやん! 人外のことは人外同士でなんとかしろや。
「あなたが封印を解いたのでしょう。その責任を果たしなさい」
「よし。美青年ハイエルフ。自由に生きろ。グッドラック!」
ハイ、オレの責任終ー了ーでーす。お疲れしやした! 解散!
「お主が封印を解いてくれたのか。いきなり襲いかかってすまなかったな。よろしく頼むぞ」
あれ? オレが預かることに流れてんだけど? オレ、自由に生きろって言ったよね? どこで湾曲された?
「チャーニー。元に戻しておいてくだされ」
「ハーイ! ほらいくぞ、自称村人!」
なぜか蹴り飛ばされ、シュンパネで飛ばされてしまいました。ほんと、なんて理不尽だよ!
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