第1566話 動く鎧

 土魔法で穴を掘りながら進むと、地下牢に出た。


「神はオレを牢獄スローライフにさせたいのか?」


 それはそれで魅力的だが、オレは村人。大自然の中でスローなライフを送りたいぜ。


「べー様のその無駄に楽観的なところ、頭おかしいですよね」


 なにいきなりのディスりは? 人生、ポジティブにしてるだけなのに。


「ここにも牢獄があるのに、なんでオレは別の牢獄に入れられたんだ?」


 こっちのほうがしっかり造られて脱獄が難しいだろうに。


「世の中、べー様基準で造られてませんよ。あっちも脱獄するのは大変でしたけど」


 そうか? まあ、ここは人を閉じ込めておくところ。オレのような非常識な力を持ってる者を閉じ込めておく場所じゃねーか。


「人の気配はねーな?」


 逆に幽霊の気配があったら殺戮阿吽でぶん殴ってやるがな。


「幽霊も一生懸命存在してるんだから止めてくださいよ」


 いや、一生懸命の方向間違ってんだろう。全力で成仏しろや。


 結界灯を創り出して牢を見て回るが、使われている感じはなかった。てか、放棄されたって感じだ。


「この寒さじゃ入れた次の日は冷たくなってるか」


 オレは結界を纏っているから平気だが、これは確実に氷点下になってる空気だ。


「べー。そこの壁からなんか嫌な気配がする」


 二周したがなにもない。さて、どうするかと考えていたらみっちょんが頭からテイクオフした。


 みっちょんが叩く壁を触り、土魔法で分解させた──ら、階段が現れた。


「謎の地下階段か。なんかわくわくすんな」


 アリテラたちが冒険に嵌まるのも頷ける。まあ、冒険者になる気はございませんがね。


 長い階段を降りていくと、ドーム状の部屋に出た。


「……なんか、明らかに罠がありますって感じだな……」


 オレの考えるな、感じろがなんかあると言ってるよ。


「あれじゃないですか? 壁際に飾られてる全身鎧、魔力が宿ってます」


「動く鎧、ってヤツか?」


 よく昔から宝物庫を守る番人として用いられるものだ。


「そう言えば、エリナんところのオーガに鎧着させて操ったことあったっけな~」


 そのあとアリテラにキレられておしっこちびりそうになったのは今でも怖い出来事だぜ。


「べー様は昔からべー様だったんですね」


 なんの納得だよ? オレはオレを楽しんでるだけだわ。


 ドーム内に入る。入っただけでは作動しないか。


 結界灯をいくつか創り出して結界使用範囲内ギリギリに移動させる。


「……あれが霊壁を生み出しているものか……」


 アーサーくんが抜くのを待っているかのように平べったい岩に剣が突き刺さっていた。


「あの剣、破魔の剣かもしれませんよ」


 破魔の剣? 破魔矢の親戚か?


「アリュアーナにあった破魔の鎖と同じ系統のものです。ハイエルフの力を封じ込めてると思います」※811話


「同じヤツが創ったものか?」


「なんとも言えませんが、あんなものを創れる者が何人もいたらたまりませんよ」


 確かにそうだな。人外を封じれるヤツが何人もいたらたまったもんじゃねーか。


 ドーム内に足を踏み入れ、四歩ほど進むと、ペキって音がした。


「発動したみたいですね。かなりの魔力が高まってます」


 オレにもわかる。ちょっとした魔術師並みの魔力だぞ、これは。


「まあ、魔術師ていどの魔力なら怖くもねーな」


 ズボンのポケットから殺戮阿吽を抜いた。


「久しぶりに体でも動かすか」


 能力ばかり使って体を動かしてなかった。イイ機会だから殺戮阿吽の錆としてくれるわ。


「てか、動き出すまで時間がかかってんな」


「長いこと整備してませんしね。ああいうのって日頃の手入れが大切ですからね」


 魔力で動かすんだから魔力を潤滑剤にしろよ。雑な造りしやがって。


 ギーギーガシャガシャうるせーな。熱したサラダ油風呂に放り込んだろか?


「揚げてどうするんですか?」


「カラッと揚げたら動きもよくなんだろう」


 卵とパン粉をつけねーだけ感謝しろ。


「剣も錆びてんな」


 抜き放った剣が錆だらけ。重要なもの守ってんなら特殊金属くらい使っておけよ。ありがたくもらってやるのによ。


「まあ、おもしろそうだから二体ばかり無傷で捕獲するか」


 どうなってるか興味がある。暇なときに分解してみようっと。


「じゃあ、やりますか!」


 殺戮阿吽を振り回し、動く鎧へ飛びかかった。

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