第1565話 高位霊体

 城壁都市にしては珍しく城は壁の近くにあった。


「と言うか、城塞都市っぽいですね」


 確かに言われてみれば城壁ってより城塞都市と言ったほうがしっくりくるな。


「戦争のためじゃねーから魔物から防ぐためか」


 国同士の戦いなんてそう起こるもんじゃねー。大体は魔物の大暴走から守るために築かれるものだ。


「冬なだけあって警備は少なめだな」


 さすがに警備なしではなく、兵士が数人巡回していた。ご苦労様だよ。


「べー様。霊壁が張られてます」


 霊壁? なにそれ?


「簡単に言えば霊力の壁です。わたしのような幽霊の侵入を防ぐためのものです。エルフでもいるんですかね?」


 オレにはまったくわからんが、幽霊が言ってるなら間違いはないだろう。


「あ、精霊にも有効だからミッシェルさんも弾かれちゃいますね」


 実体のある精霊も防ぐのか。なんか悪霊にでも狙われてんのか?


「そんな悪い感じはしませんけどね?」


「あの中に強い高位霊体を感じるわ」


「高位霊体ですか? わたしはなにも感じませんが」


「幽霊の霊力じゃなく、これはエルフに近いものよ」


 エルフに近くて高位霊体となれば……ハイエルフか? 


「ハイエルフって全滅したのではないのですか?」


「いや、知り合いにいるよ。戦闘民族になる賢者殿が」


 最初は少女の姿をしてたのに、戦いになると戦闘民族に変身する……なんて名前だったっけ?


「タノン・ティン様です」※423話くらいから読んでください。


 と、ドレミが教えてくれました。


 名前を出されてもピンとこねーが、たぶん、そんな感じだと思う。


「てか、賢者殿のこと、なんも知らねーわ」


 ご隠居さんと同じで過去はあまり語らないタイプっぽかったしな。


「あ、見られた」


 見られた? なにをよ?


「あの中にいる高位霊体よ。助けてって言ってるわ」


 助けて? それって、捕らわれているってことか?


「この霊壁を越えて声をかけられるって、かなりの存在ですよ」


「その存在を捕らえられるヤツがいるってことでもあるぞ」


 賢者殿と同じかどうかわからんが、捕らえているヤツが人外ならオレじゃどうにもできねーぞ。


「封印が解かれれば負けないってさ」


「こちらの声を聞き取れるのか?」


「ううん。わたしが状況を伝えているのよ」


 ってことは、みっちょんも高位霊体ってことか。存在感は薄いのにな。


「この壁は道具で創られているみたいよ。それさえなくなれば自力で抜け出せるってさ」


 魔道具ってこと。なかなかエゲつないものがあるもんだ。


「これは、人には効果ねーのか?」


「ないみたいよ。これは高位な者を閉じ込めるために創り出されたものなんだって」


 また物騒なもんを創るヤツがいたもんだよ。


「まあ、相手がハイエルフなら見て見ぬ振りはできんか」


 ハイエルフも人外。どことどんな繋がりがあるかわかったもんじゃない。見捨てたともなれば敵対されるかもしれん。そうなるくらいなら国を敵に回したほうがまだ楽だわ。


「その道具を壊すと伝えてくれ」


「ありがとうだって」


「それは助かってからにしてくれ」


 その道具がどんなもんかわかんねーのだ。ぬか喜びされたら申し訳ねーよ。


「レイコさん。その霊壁まで案内してくれ」


 オレにはなにも見えん。手が届くところまで導いてくださいな。


「かなり広範囲に張られたものなので城壁の外ですね。べー様の歩幅だと三十歩くらいです」


 レイコさんの指示で三十歩進み、ちょっとずつ近づき、霊壁に触れた、らしい。なんも感じないよ。


「人には無意味なものですしね」


 限定的なものか。それだと感じられんぞ。


「任せて。手はそのままにしててね」


 みっちょんが頭から腕に降り、トコトコ歩いて手首のところで停止した。なにすんの?


 息を大きく吸い込み、ふーとオレの手に息を吹きかけた──ら、窓に息を吹きかけるように雲ってしまった。


「見えたなら感じられるでしょう」


「任せろ」


 あるとわかればオレの考えるな、感じろは充分。結界を展開。霊壁に穴を開けた。


「ベー様、穴が開きましたよ!?」


 オレには見えんが、穴を開けるイメージで結界を展開させた。


「レイコさんもみっちょんも入れそうか?」


「はい。大丈夫です」


「問題ないわ」


 みっちょんが腕から飛び出し、結界の穴を通った。って言ってもすぐ壁なので、土魔法で分解。穴を開けて中へお邪魔しまーす。


「てか、これは壊したことになるのか?」


「いえ、発動してる状態なので大元をなんとかしないとダメですね」


 そう都合よくはならんか。じゃあ、その大元のところにいきますか。


「場所、わかる?」


「はい。地下にある感じですね」


 地下か。じゃあ、土魔法で穴を掘っていってみよー! と、土魔法で大元に向かった。

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