第1563話 やってることが犯罪者
「よし。治ったな」
「でも、効果が薄くないですか? 痩せ細ったままですよ」
言われてみれば確かに。親父さんのときは腕一般生やしたときは左右にあった腕の太さだった。
エルクセプル自体に栄養が込められている。それは先生が書いた本にも書いてあった。なのに、その栄養を超えるほどの傷を負っていた、ってことか?
「エルクセプルは謎が多いぜ」
都合のよい万能薬のようでちゃんと法則がある。オレの頭じゃ解き明かすことができんよ。
「先生、いつ起きるんだ?」
吸血鬼の眠りは年単位だ。長く眠ったの十年くらいって言ってたし。
「そう長くないと思いますよ。べー様がよく血を送ってくださいましたから貧血も少なくなってましたし」
吸血鬼が貧血とか笑い話かな? まあ、食うことより研究に没頭しそうなタイプだしな、不摂生で生活のバランスが悪かったんだろう。
「健康になったらあと三百年は余裕で生きそうだな」
吸血鬼は長命種ではあるが、一番の死因は不摂生だと先生が言っていた。長く生きるだろうと油断して早死にするんだとか。ほんと、生き物とはなんらかしらの欠点があるもんだよ。
「とりあえず、脱獄するか」
「普通に犯罪なことをさらりと言いますね」
「不法には不法で対抗させてもらいます」
それに、オレには権力者との繋がりがある。こんな街でのこと握り潰してくれるさ。ケケッ。
「もう発想が犯罪者!」
犯罪は法に乗っ取って立証される行為のこと。立証できなければ犯罪ではございませぬじゃ。カッカッカの屁のカッパ~!
「隠滅!」
土魔法で牢屋を分解。さらっさらな砂に変えてあげました。
霊視眼の女を背負いさようなら~。途中で酒に酔ってた看守は結界で捕縛。結界を纏わせて外に放置しました。仕事中な酒は厳罰の対象だから今後はするんじゃないよ~。
「どこにいくの?」
「この街の規模なら教会はあるだろう。そこを借りよう」
冬になれば街と街を移動する者もいないだろうから宿屋を探すより教会を探したほうが早い。教会のある場所ってどこも似たりよったりだからな。
大通りを歩けば教会の鐘楼を発見。その近くに古い平屋があればそこが孤児院だ。ほらビンゴ。
まずは教会に向かい、扉を叩く。
「申し訳ないありません。旅の者です。宿がなくて困っております。一晩の寝床をお貸しください」
お布施として銀貨を一枚シスターの手に握らせた。
「姉が体調を崩してしまって、寝台をお貸しいただければ幸いです」
教会も金がなくちゃ運営はできねー。まだ冬が続く地では金は喉から手が出るほど欲しいだろう。
冬を越えるってのは命懸けだ。神に仕えようがその苦しみから逃れることはできねー。目の前にお布施を断れるわけがないさ。
「それは大変! さあ中に!」
ってことでお邪魔しまーす。あー寒い寒い。薪もねーのかよ。ハイニフィニー王国の冬は想像以上に厳しいのな!
「シスター。これをお使いください」
突然現れた薪にびっくりするものの、今を受け入れることができるシスターのようで、現れた薪を集めて暖炉に火を入れてくれた。
「魔法の鞄を所持しておりますので、薪はたくさんあります。他の部屋も暖めてください」
さらに薪を出して教会や孤児院にも薪を運んでもらった。
「申し訳ありません。わける食料がありません」
断る振りして食料があるかを尋ねてくるこのシスター、なかなか見所があるじゃないか。ゼルフィング商会に欲しいくらいだ。
「べー様の見るところが人と全然違いますよね」
そうか? オレはちゃんとそいつの本質を見極めているだけだがな?
「あまり大したものはありませんが、芋と豆、チーズはたくさんあります。これをお使いください」
非常食として入れておいた芋と豆、山羊の乳で作ったチーズを出した。
「よ、よろしいのですか?」
さすがに出した量に驚くシスター。
「そりゃ二十袋も出したら驚きはしますよ。加減ってものを覚えてくださいよ」
加減して二十袋にしたのに……。
「あ、塩もどうぞ。これで温かいものをお願いできますか?」
なにが作れるかはそちらにお任せいたします。
「わかりました。すぐに用意しますね。お姉さんをこちらに」
シスターが使っているだろう大部屋に向かい、霊視眼の女を寝台へ寝かせた。
念のため、栄養剤を薄めて飲ませておこう。そのままだと五日は眠れなくなるからな。
「うん。もうそれ劇薬ですよね」
あんちゃんは今でも生きてるから劇薬じゃありません。
「その後、五日は眠れなくなりましたけどね」
どんな薬にも副作用はあるもの。それをなるべく出さないようにするのが薬師だも~ん。さあ、十倍に薄めた栄養剤をお飲みなさ~い。
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