第1561話 獄中スローライフ

 雪を無限鞄に放り込みながら進んでいると道に出た。


「へー。雪かきしてんだ」


 なにで雪をかいたかまではわからんが、地面が見えるくらい雪がない。雪国ならではの魔法があるんだろうか?


 せっかちなので道を辿って街へ向かう。


「結構高い壁に囲まれてんだな」


 オレが知る中で一番の高さだ。十メートルはあるんじゃないか? 巨人でも攻めてくんのか?


 城壁の高さに呆れていたら門に到着。しっかりと閉じられていた。ノックしたら開けてくれるかな?


「何者だ!」


 どうしようと考えたら上から誰何された。


 誰や? と上を見たらバルコニー的なところに兵士っぽい男がいた。


「雪が積もるから監視所を高くしてるんですかね?」


 どうなんだろうな? その土地土地で事情が変わってくるし、想像もつかんよ。


「何者だ!」


「オレはべー。アーベリアン王国から来た。この街は王都かい?」


 行商人からハイニフィニー王国のことや王都のことは聞いたが、どこに王都があるかまでは聞いてねー。王弟さんからはカムラ王国回りで三十日くらいかかったとは聞いたがよ。


「ここはロッテートの街だ。お前だけで来たのか?」


「そうだ。オレ一人だ」


 幽霊とメルヘンがいます、なんて言ってもややこしくなるので除外させていただきます。


「子ども一人ってのもややっこしい事態ですけどね」


 そこは軽く流してもらえると助かります。


「あ、今そこで雪の王と呼ばれるフラーセルに会った──」


「──フラーセルだと!? 本当か?!」


 オレの言葉を遮り詰問してきた。


「証拠はないが、本当だ」


 兵士が城壁の中へ消えていき、なんやかんやで城門がご開帳。兵士がわらわら出て来て捕まりました。なんでや?


 よくわからんが騒ぐのもメンドクセーし、お縄にされたまま地下牢へと放り込まれました。


「オレ、牢に入るの初めて」


「なに嬉しそうにしてるんですか。捕まったんですよ」


「まあ、イイじゃん。牢に入るなんて一生のうち何度あることやら。オレは無実だー!」


 とか、捕まったときのお約束をやってみた。


「アハハ! おもしれー!」


「……なにがおもしろいのかさっぱりですよ……」


 いやまあ、オレもなにが楽しいかわからんけどね。


「不味いメシとか出るのかな? カビたパンとか出たりして」


「食べる気?」


「いや、記念にもらっていこうかなと思って。ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング十一歳。不当な拘束を受けて牢に入れられるとか書いて部屋に飾っておこう」


「捕まって喜ぶ心情もカビたパンを飾るのも理解できません」


 まあ、理解されたいわけじゃないから気にしません。


「こんなことならシマシマの囚人服とか作っておくんだった」


 オレは形から入る男であり雰囲気を大切にする男でもある。これじゃ雰囲気台無しだな。


「べー。ちょっと綺麗にしてよ。なんか汚い染みがあって気持ち悪いよ」


 確かに汚い染みのあるところに座るのは嫌だな。


 あらよっと! で、牢を綺麗にして人の形に染みついた藁を結界圧縮して牢の外にポイ。石の寝台に絨毯を敷いてクッションとテーブル。コーヒーセット、茶菓子を出した。


「形や雰囲気はどこにいったんです?」


 たぶん、そこら辺に落ちてると思うよ。気になるなら探してみてください。


「牢で飲むコーヒーもまた格別だな」


「べー。ケーキ食べたい」


「シュークリームしかない」


「じゃあ、それでいいわ」


 シュークリームを出してやり、オレも一ついただくことにする。


「たまに食うと旨いな、シュークリーム」


「べー。紅茶」


 注文の多いメルヘン。最後に食べられちゃうのか? あれ? 注文の多い料理店ってどんな話だったっけ? カイナーズホームの本屋に宮沢賢治の本、置いてっかな? 


「牢屋で寛ぐ人、初めて見ましたよ」


 オレも牢の中で寛ぐのは生まれて初めてだな。


「獄中スローライフもイイかもな」


「未だにスローライフがなんなのかわかりませんが、獄中とスローライフは絶対に交わらないと思います」


 まあ、それを融合させちゃう人もいるかもしれねー。なら、オレも挑戦せねばスローライフを目指す者として負けてらんねーぜ。


「なんの張り合いですか?」


 今、スローライフを賭けた戦いが始まる、とか? そんな感じ? まあ、なんにせよ、ゆっくりまったり今を楽しもうじゃないの。


「あーコーヒーうめ~」

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