第1560話 雪の王フラーセル

 ラズリズ・デルタの速度はそう速くないが、遮るものがないから三十分くらいでバリアルの街が見えてきた。


「正面に山脈があるだろう。とりあえず、山脈を越えてくれ」


 冬なので山脈には雪が積もっているが、昔、親父殿から聞いたことがある。


 アーベリアン王国側からハイニフィニー王国にいくには二つあり、雪が積もってなければ主要街道を。雪が積もったら洞窟を辿っていくと言っていた。


 ただ、その洞窟を知る者は少なく、迷路のようになってるから冒険者でもよほどのことがなければ通らないそうだ。


 随分と詳しいな~と思ってたが、親父殿がハイフィニー王国出身なら納得だぜ。


 山脈を越えると、雪原が見えてきた。


 ハイニフィニー王国は山国だが、土地は肥沃なようで芋と豆がよく獲れると聞いたことがある。


 まあ、去年は食料不足になったようだが、不作の年はどこでも起きる。ボブラ村だって何度も不作の年はあったからな。珍しいことじゃねー。


「艦長。オレはテキトーなところで降りる。ワリーが、ボブラ村とハイニフィニー王国との航路を確立させてくれ。アーカム隊は……雪の中でも動けるのか?」


「長時間は無理です。竜機は元々温かい地で生きていたものなので」


 温かい地の生き物だったんだ。初耳~。


「じゃあイイや。ラズリズ・デルタと一緒に行動してくれ」


「了解しました」


 しばらくして街が見えてきたのでラズリズ・デルタのハッチを開けてもらいスカイなダイビング! 空飛ぶ結界を創り出し、鮮やかに滑空して街から少し離れた場所にランディングした。


「べー様、冬の格好しないと怪しまれますよ」


 あ、いつもの村人ルックのままだった。


 無限鞄から冬用の服と羊の毛で編んだ帽子を出して着込んだ。


「あの街は王都ですかね?」


「どうだろうな? まあ、とりあえずいってみるとすっか」


 ハイニフィニー王国のことは行商人からの話でしか知らんが、そう大きい国じゃないそうだ。大都市にいけば王都の情報くらいすぐに手に入れられんだろうさ。


 積もる雪を無限鞄に放り込みながら街に向かって歩き出す。


「さすが雪が多いと言われる国だな。雪の量がハンパねーぜ」


 三メートルは余裕で積もっている。よくこれで生きていけるもんだよ。


「ベー。上見て」


 被った毛糸の帽子を奪ってクルまっていたみっちょんがそんなことを言った。上?


「大きな白狼ですね」


 そう。見た目は確かに大きい白狼だが、あれはフラーセル。北欧神話(こっちの世界のね)に出てくる冬の王だ。


「あ、聞いたことがあります。冬の王の物語。本当にいたんですね」


「親父殿から物語としては聞いてたが、本当にいるものだったんだな」


 初見でなぜわかったかと言えばフラーセルの瞳が金色だからだ。


「まさかハイニフィニー王国に来て最初に出会ったのが雪の王とはな」


 オレの出会い運が為せる業だろうか?


「狂暴なの?」


「物語に出てくるのは狂暴で、いくつもの町を破壊してたな」


 だが、オレを見る雪の王の目には理性があった。あれはかなり知能が高いと見た。


「オレになにか用か?」


 通じるか通じないかは知らん。だが、知能が高い魔物──いや、魔獣(知能が高い獣をそう呼ぶ)なら人語を理解する。でなければ討伐対象になるからな。


「この大陸では魔獣は討伐されないんですか?」


「悪さする魔獣でなければな。知能が高い魔獣はその土地の守り神みたいな扱いになるらしいぜ」


 オレはまだ魔獣とは遭遇したことはねー。あ、ルンタも魔獣になるのか? いや、ニューブレーメン(ルンタ、カバ子、アリザ、茶猫だよ。ちなみにプリッつあんが代表だ)の面々を魔獣と言うには抵抗があるな……。


「……見知らぬ鳥が飛んできたから見に来た……」


 お、しゃべった。しかも流暢だ。これは長いこと生きた魔獣だな。


「オレはベー。隣の国から来た。この国にもあんたにも害を与えるつもりはねー。用が済めばさっさと帰るよ」


「不思議な生き物だ。お前からいろんな臭いがする」


 さすが狼。嗅覚が次元を超えてる。


「あんたみたいなのとよく遭遇するからな。いろいろ臭いはするだろうさ」


 嗅ぎ分けられたらそれこそ次元を超えた生き物になるわ。


「そうか。お前を信じよう」


 あっさりと受け入れ、吹雪とともに去っていった。


「さしずめ、ハイニフィニー王国の守護獣ってところだな」


 あ、思い出した。ハイニフィニー王国の旗には雪の王、フラーセルの横顔だったわ。


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