第1555話 ガラスの部屋

「もー! どこに消えてたのよ! あなたはすぐ消えるんだから!」


 戻るなりアリテラに怒られてしまった。


 うん。苦労して穴を開けたあと、オレを放置したの君らだよね? なんで怒られにゃならんのよ?


「日頃の行いでは?」


 ハーイ、そうでした~。ゴメンナサ~イ。


「で、どうした?」


 怒るのはあとにしてなにがあったかを説明してちょうだいな。


「説明するより見てもらったほうが早いわ」


 そう言われて引っ張られ、穴の向こうへと連れて来られた。


 魔法の光がいくつも灯されており、そこが大空間だってのがわかった。


 ……居住区かな……?


 穴が開いて水が蒸発し、空気が入ったことにより風化が起こり、住居らしき建物が瓦解した感じだ。


「べー。こっちよ」


 瓦解した中を数百メートル進むと、柱──いや、塔か? かなり上まで延びているっぽい。


「他にもこの塔はあったわ」


 狭い空間でも住めるように集合住宅的なものか?


「だったらマンションだな」


 人魚がマンションに住んでるって笑えるな。


「あのダンジョンマスターか住んでいた建物と同じなの?」


「いや、あいつのマンションはマンションじゃねー。単なる引きこもる巣穴だ」


 いや、腐れどもの魔窟か? 是非とも勇者に滅ぼしてもらいてーよ。


「入れるのか?」


「ええ。見せたいものはこの中よ」


 アリテラたちに案内されてマンションに入った。


 人魚が往来できるよう廊下は広く造ってあるが、水の中で暮らすことが基本なので階段はない。上へいくために中央部が吹き抜けになっている。


「この辺は海の人魚と繋がるものがあるな」


「この上よ」


 上がるためにロープが垂れ下がってるが、オレの結界で階段を創って上がることにする。


「べーの力って便利よね」


「便利に使えるよう考えたからな」


 能力もいろいろ使って創意工夫しなくちゃ宝の持ち腐れ。その宝を腐らせる方向に全振りしたヤツもいるけどな!


「まだ上か?」


「ええ。ガラスの部屋よ」


 ガラスの部屋? 


 五階くらいまで結界階段を創り、重厚な扉が少しだけ開いていた。


 人魚一人分の幅で、シープリット族には厳しいので残っててもらい、オレらだけで入った。


「……コールドスリープか……?」


 SF映画で観たようなケースが並んでおり、いくつかが開いていた。


「中身はなし、か?」


「おそらく、ゴブリンに食べられたんだと思うわ。外に骨がいくつか転がっていたから」


 空気に触れたことでケースも風化して脆くなった、ってことか?


 落ちている瓦礫をつかんでケースを叩いてみると、簡単に割れてしまった。


「なんなの、ここ? べーにはわかるの?」


「オレもはっきりとは言えねーが、なにか問題が起きて、この箱の中に生きたまま封印したんだろう。だが、穴が開いて、水が蒸発して、長い年月で脆くなったんだろう」


 他のケースを見て回るが、ほとんどのものが破壊され、中身を持ち去られていた。


「可哀想にな」


 まあ、苦しまずに死ねたことが救いか。って、オレの勝手な妄想だけどよ。


「しかし、ゴブリンはどこから上がってきたんだ?」


 通気口──いや、通水口か? そういうのを伝わって来たんだろうか?


 コールドスリープルーム(仮)がここだけってわけじゃねーだろうから、生き残っているのもいるかもしれんな。


「さすがにオレらだけじゃすべてを見て回るのは無理だな」


 ここの知識もねーヤツが無闇に探って、変なこともできんか。


「よし。探索は一旦中止する。戻るぞ」


 コールドスリープルーム(仮)から出て、シープリット族に撤退を告げた。


「これからどうするの?」


「ねーちゃんたちさえよければ探索を続けて地図を作って欲しい。報酬は弾むからよ」


 暗い地下を探るのはつまらねーだろうが、他に頼めるヤツもいねー。ねーちゃんたちがやってくれるなら報酬を弾むくらいなんでもねーさ。


「ええ、引き受けるわ。未知なものを探るって楽しいもの」


「人魚の遺跡。それも星の彼方からなんてそそるわ」


「ふふ。わたしたちの名が歴史に残っちゃったりして」


「キャンプ地は充実させてね」


 やる気満々なねーちゃんたち。根っからの冒険者だよ。


「見習い魔女たちもしばらく付き合え。ここは記録に残す価値、いや、この世界に住む者の宝となるものだ。しっかり調べろ。叡知の魔女さんにはオレから言っておくからよ」


 会ったときになるかもしれないけど、そこはご容赦を。


「わたしたちに拒否権はないのかよ?」


「したきゃ叡知の魔女さんに言え」


 ない! と言われる未来しか見えねーけどな。


「まあ、交代でやれ。あと、誰かカイナーズホームにいってデジカメを買って来い。オレの名を出せば買えるから。好きなもの買ってイイぞ」


 まずは全員で地上に向かった。仕切り直しするために、な。

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