第1554話 現場復帰の要望
「人魚とは戦いたくねーが、無償であんたらを助けてやる義理はねー。そこんところをよく考えて決断しろ。お前らの決断で生きるか死ぬかが決まるんだからな」
こうなることはあるていど予測できたが、だからと言って無償で助けてやろうとは思わねー。オレは慈善事業で村人やってるわけじゃねーんだからよ。
「そもそも村人は絶滅寸前の種族に介入したり、国家間の問題に入ったりしませんけどね」
オレだって介入したり間に入ったりしたくねーよ。あっちから巻き込んでくんだから回避するしかねーだろうが。
「まずこちらから歩みよろう」
無限鞄からカムラ産の野菜を出して三倍の大きさにしてやる。あんまりデカいと食い難いからな。
「あんたらと同じ淡水に住む人魚が食ってたからあんたらも食えるはずだ。試しに一口食ってみろ。なにか異常があればすぐに吐き出せよ」
人魚に人気の苦瓜をつかんで差し出した──ら、ダーティーさんがつかんでかぶりついた。度胸がある男だ。
「……旨い……」
そう呟いたあと、一心不乱に苦瓜を噛みついた。
「そんなに旨いか?」
人気ではあったが、そこまでにはならなかったぞ。
「ああ、旨い! 外にはこんな旨いものがあるんだな!」
ヘチマくらいのサイズにした苦瓜を完食するダーティーさん。意外と大食漢?
ダーティーの食いっぷりに周りも食欲に火がついたようで苦瓜を食い始めた。
「……外にはこんな旨いものがあるのだな……」
ダーティーさんと同じ感想を口にした。
「あんたらのとこでは野菜、こういう植物はないのかい? 同種の人魚は肉を食っていたが」
南大陸の人魚は陸の種族と物々交換していたが、ダーティーさんたちは外と隔絶していた。なら、なにかを栽培してたり家畜がいたりするはずだ。
「豆とロズルを飼っていた。だが、人が増え、病が流行り、なんとか飢えを凌いでいる状況だ」
「水の中で育つ豆か。それはイイな。そいつの苗をいくつか売ってくれ。その分の食料を渡すからよ」
さらに野菜を追加で出してやった。もちろん、三倍にデカくしてな。
「それだけあれば仲間の説得に役に立つだろう」
「感謝する」
「メイドさん。南大陸で雇った人魚、何人かここに呼べるか? って、メイド長さんに言ったほうが早いな」
水輝館に入り、邪魔にならない場所に転移結界門を設置。まずはハブルームに繋いだ。
ハブルームに詰めている魔女がなにやら少ない。前は四人くらいいたのに二人しかいないよ。
「今日はこれだけか?」
「おそらくこれからはこの人数でやっていきます」
「人員削減か?」
魔女の世界にも大リストラ時代がやって来たか?
「確実にべー様が仕事を増やしたから人を割かれたんでしょう」
うん。仕事がたくさんあってなによりだ。オレは適度な仕事があるほうがイイけどな。
「いい身分ですね」
ハイ。イイ身分で~す。村人ハラショー!
ハブルームから黒鳥館に繋いだ。
「メイド長さん、カモーン!」
「ここにおります」
って呼んだら横にいたよ! オレが来るのわかってたの?!
「べー様が水輝館へ向かったと聞きましたので待機しておりました」
メイド長さんの予測能力、どんだけだよ? もう未来視だよ!
「べー様と方向は違いますが、見ている先は同じかもしれないですね」
オレはただ、スローなライフを送る未来を見てるだけだぞ。
「人魚のメイドでしたら教育が完了しております。ただ、すぐに稼働できるのは四名しかおりません。補助として人魚の執事をつけてよろしいでしょうか?」
……どんだけ用意周到だな、この人は……?
「稼働できるだけ水輝館に送ってくれ。必要なものがあるならオレの名でカイナーズホームから仕入れてくれて構わねーからよ」
「畏まりました。必要な場合はそう致します」
ほんと、頼りになるメイド長さんだよ。
「べー様。春までにミタレッティー様を現場復帰させてもらえないでしょうか? そろそろわたしでは対処できなくなっております。ご検討、どうかお願いします」
「あ、うん。誠意努力致します」
メイド長さんがそう言うなら限界近いのだろう。この人の言葉は聞いておかなくちゃならないオレの勘が言っている。無視したらきっと最悪になるだろう。
オレのスローなライフを脇に置いてもミタさんの現場復帰に努力しよう。そのためにも人魚問題の解決だ。それがミタさんを現場復帰させる方法の一つだからな。
転移バッチ発動。モリブへ向かった。
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