第1553話 水の惑星
毎日雪が降るのか、湖側がほぼ雪にうもれており、メイドたちが雪かきした道が湖に延びていた。
「排除しておくか」
地竜に全部やったから無限鞄の中は空っぽ。この辺のをがっちり無限鞄へと放り込んだ。
「今さらだが、無限鞄って便利だよな」
形は鞄ではなく、キーホルダー(書籍のどっかに書いたはず)だかな。
湖に来ると、人魚が何匹──じゃなく、何人かが泳いでるのが見えた。
「この寒さで泳げるとか人魚はスゲーもんだ」
海の冷たさでも泳げることは知ってるが、淡水人魚も身体的に変わりはねーようだな。
桟橋に積もった雪を無限鞄に放り込みながら進んでると、それに気がついた人魚たちが集まってきた。
先端に立つと、懐かし……くもねーが、ダーティーな人魚──なんて言いましたっけ?
「ハミーさんですよ。惜しい! とか言ってましたよ」
そうそう。ハミーよりハリーが似合いそうなダーティーさんだったな。
「久しぶりだな。元気にしてたかい?」
「ああ。礼も言わず消えてしまいすまなかった」
「助けたのはオレの勝手。礼など求めちゃいねーよ。だが、その謝罪は受け入れた。以後の謝罪はしなくてイイぜ」
「……べーは、何者なんだ……?」
「前にも言った通り、旅好きな村人だよ」
「うん。戸惑いしか与えないからその紹介止めなさい」
レディ・カレットに後頭部をチョップされてしまった。
「ハミー様。この自称村人は数ヶ国に顔が効くだけじゃなく、数ヶ国を裏から操る策士です。もちろん、人魚の国とも繋がりがあります。あなたがこうして現れるのも予測してたはずです」
「まさかこのタイミングで現れるとは思わなかったがな」
なんの偶然か神の導きか。まったく、オレのスローなライフをことごとく邪魔をしてくれるぜ。
「まあ、なんにせよ、だ。そちらが話をしたいってんならこちらは聞いてやるぜ。別にそちらと戦いたいってわけじゃねーしな」
ここはバイブラスト。友達の領地だ。そこを戦地にはしたくねーよ。
「感謝する。我々もそちらとは戦いたくないのでな」
「それはなによりだ。戦っても得られるものはなにもねーからな」
戦争ほど愚かな行為はねー。特にたくさんの種族がいるこの世界では一度火がついたら全世界に広がり、種族同士の戦い、憎しみ合い、最悪な結果しか残らねー。スローなライフを送りたいオレとしては全力で阻止させてもらうわ。
「とは言え、いきなり仲良くしましょうって言ったってお互いのことはなにも知らねー。種が違えば暮らしが違う。暮らしが違えば考え方も違う。違いがわからねーから不安が生まれる。そこで、だ。この湖をそちらに貸し出す。食料が足りないと言うなら融通しよう。まずはお互いを知ることから始めねーかい?」
ダーティーさんたちにいきなり信じろって言っても信じられるわけもねー。今は不安と疑いが渦巻いていることだろうよ。
「ここですぐ答えを出せとは言わねー。ゆっくりお互いを知っていこうじゃねーか」
「……そうしてもらえると助かる」
「こちらとしても助かる。今、あんたらの遺跡を調べてる途中でな、こちらに時間を割いてる暇はねーんだわ」
「べーは、我々の過去を知っているのか?」
「大まかなことはな。たぶん、今調べている遺跡はあんたらの流れを組む存在なんだと思う。まだ勘でしかないけどよ」
この星で進化して海と淡水に別れたかと思っていたが、宇宙からやって来たのならそれは元の星で進化したってこと。ならば、海派と淡水派は別々の勢力ってことになる。
「あんたら人魚は星の彼方からこの星に来た。そんな伝承か物語は残ってねーかい?」
何千年前に来たかはわからんが、都市伝説くらいには残っているはずだ。
「……残っている。先祖は悪魔に襲われ水の惑星を追いやられ、星渡る船でこの世界にやって来たと」
「うん! 残してくれた先人たちに感謝だな。人魚は別の星から来たのは確実だ」
ほぼ確証してたことだが、外と隔絶していたヤツらが言うならもう疑いようのない証拠だ。人魚の謎が一つ解けたぜ。
「その遺跡におれも連れてってくれ! 過去を知りたいんだ!」
そういや、ダーティーさんって冒険者だったっけな。
「こちらとしては助かるが、まずはこの地に体を慣らしてからだ。外の世界にはいろんな病気がある。その病気にかからない体を得てからだ」
交渉団からの話も聞く必要がある。ダーティーさんを連れていくのはそのあとだ。
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