第1552話 ダーティーさん再び

 皆さんは覚えているだろうか、水輝館(あれ? あの湖の名前なんだっけ?)に現れたダンディーな人魚のことを?


 オレはレイコさんから教えてもらうまですっかり忘れてました。だってそのあとタケルのことがあって記憶から零れ落ちてもしょうがないじゃない。


「タケル様のことも忘れてますよね? と言うか、その前にエルフとダークエルフの合コンがありましたが? 」


 あれ? そうでしたっけ? ちょっと記憶が曖昧になってます。


「記憶力いいとか言ってませんでした?」


「しょうがねーじゃん! 毎日いろいろありすぎんだからさ!」


 言っておくがオレが引き起こしたことは……あるかもしんねーが、大体は厄介事のほうからやってきてるんだからな。オレのせいじゃねーし!


「そのためにレイコさんがいるんだから忘れててもイイの!」


「記憶は自分の中で溜めておいてくださいよ。脳が腐……ってましたね」


 腐ってねーよ! ただ、ちょっと、記憶するのが嫌になることがあるだけだい!


「もー! べーの記憶はどうでもいいのよ!」


 いやよくねーよ! オレの記憶は!


「父様もべーを探してたわ。早く水輝館にきて!」


「いやオレ、まだモリブの探索が残ってんだけど」


「他者にやらせてる探索ですけどね」


 そうだけど! オレがやらせてんだからオレが責任者! 責任者が現場から離れても不味いよね?


「いつものことじゃないですか」


 ………………。


 …………。


 ……。


 そうでした~。では、水輝館にレッツらゴー! で、久しぶりの水輝館。ここはまだ雪の中でした。


「ここもまだ完全に冬だな」


 雪が降る地とは聞いてたが、もしかすとカムラより降ってる感じだ。よくここに別荘を建てたもんだ。建てるのも維持するのも大変だろうによ。


「公爵どのは?」


「まだ領都よ。あちらで対応してるわ」


「じゃあ、誰が交渉してんだ?」


「わたしの母様よ」


「レディ・カレットの?」


「第六夫人のサーナレ様ですね」


 あ、ああ。あの人ね。レディ・カレットに似た人。


「覚えてないですよね。カレット様、公爵様似ですよ」


 あっれ~? そうだったっけ? アハハ。


「べー様」


 水輝館に入ると、第六夫人さんが出迎えてくれた。あ、うん。カレットは公爵どの似でしたね。


「おう、久しぶり。この雪の中ご苦労さんな」


「いえ。べー様よりいただいたシュンパネがありますから」


 それでもシュンパネには限りがある。バイブラストとしては貴重なものだ。ここにも転移結界門を設置しておくか。


「ここを任されてる代表は?」


 水輝館はゼルフィング家で借りてるところ。なら、管理してるなのはうちのメイドだ。


「館管理長のサミリアです」


 と、全身白な種族のメイドだった。カイナーズホームのコンシェルジュさんと同じ種族か。そういや、なんて種族だ?


「ロクジュ族ですね。少数種族で、寒さに強いとされてます」


 完全に雪女だな。てか、魔大陸に寒いところなんてあるのか?


「氷を操る魔王がいましたから、その庇護下にいたんでしょう。まあ、百年前くらいに滅んだと聞いてますが」


 魔大陸にはいろんな魔王がいるんだな。


「食料とかはちゃんと補充されてるのか?」


「はい。カイナーズホームが定期的に運んで来てくれます」


 あの生協みたいなヤツか。どんなトラックなんだ、あれは?


「それで、どう言う状況なんだ?」


 まずは館管理長さんと第六夫人に話を聞くことにした。


 ダーティーさんたちが現れたのは六日くらい前。湖まで雪かきしていたメイドが見つけたそうだ。


 メイドが話しかけたら「交渉がしたい」と、八人の交渉人を連れて来たそうだ。


「ドレミ。ダーティーさんにつけてた分裂体はどうした?」


「人魚の国で情報活動させております」


「不味い状況か?」


「はい。詳しいことはわかりませんが、人魚の国が崩壊が進んでいるようで移住派が勢力を強めている感じです」


 人魚の状況、ダーティーさんが来た理由、そして、交渉団が来たことでその深刻さがわかると言うものだ。


「べー様。人魚が攻めて来たのでしょうか?」


「それなら問答無用で攻めてるよ。勝てないと理解してるから交渉って手に出てきてんだよ」


「べーがなにかしたの?」


「なにか、ってほどじゃねー。ただ、未来に希望を持たせてやっただけだ。レディ・カレットも聞いてただろう?」


「聞いてたけど、未来に希望を持たせるようなこと言ったっけ?」


「新天地があることを示しただろうが」


「そんなこと言ったっけ?」


「新天地があることを示しただろう。滅びか新天地を目指すかだって。おそらくダーティーさんは外の世界を探りに来た。そこで人魚のことを詳しそうなオレとここを治める公爵どのと出会い、なにもせず帰された。ダーティーさんは思ったはずだ。どうするかを決めてこいと言われたってな」


 まあ、そう思ったかはわからんが、少なくとも交渉できる相手だとは理解したはずだ。


「まあ、まずはオレが会ってみる。どうするかは公爵どのと話し合いだな」


 ここを借りているとは言え、ここはバイブラスト公爵領。公爵どのに権限があり、責任を負う立場にいる。オレが勝手に進めてイイことじゃねー。


「べー様。よろしくお願いいたします」


 第六夫人にお願いされ、湖へ向かった。

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